++++ワンダーフォーゲル++++ †++PARADAISE OVER ANNEX++†
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まだたいして進展したわけではないのに、昨夜「此方」に来た時よりは若干余裕が出てきている。
亮介はうきうきと重い扉を引き、硝子灯に浮かぶ影に走り寄った。
「羅城、もうすぐ出発――」
そう云いかけて、床に倒れた羅城と、その傍に呆然と座り込む氷菜が目に入る。
「羅城――!?」
亮介に抱き起こされ、羅城はうっすらと目を開いた。
氷菜は、自らの口に手をあてたまま動かない。
「――亮、介……」
「え、なんだよおまえ、どうしたんだよ!? 大丈夫か!?」
「大、丈夫だ。ちょっと、苦しいくらいで……」
激しく咳込む羅城の背を、片腕で支えながら擦る。ぐったりと力の抜けた身体は、いくら細くてもやはりずしりと重い。
「――氷菜」
傍らに片膝をつき、朱里は氷菜の腕をとった。小さな爪の所々に褐色の塊が付着している。
氷菜は焦点の合わない目を朱里に向け、不安そうに口を開いた。
羅城は力無い指で朱里の服の裾を引き、制しようと咳の間から彼を呼ぶ。
「朱里、」
眉根を寄せて氷菜を見つめると、朱里は掴んだ腕を放し、羅城の顎を引いた。
「見せなさい、羅城」
「――っ!!」
「血、出てんじゃねえかよ」
細い喉の数カ所に三日月型の小さな傷があった。滲む血は乾いて剥がれかけているが、僅かに流れた跡が残っている。
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