++++ワンダーフォーゲル++++ †++PARADAISE OVER ANNEX++†

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「天朱坊にお会いしたい」
 羅城が声を張り上げると、鬚の大男が進み出た。
 窺うような眼差しは鋭い。
 腰の剣にかけた手が緊張しているのが見てとれた。
「何用だ」
「天朱坊はいないのか?」
 目つきの悪い男たちに囲まれ、落ち着かなくなり、亮介も浮岳から降りた。
 羅城の後ろにぴたりとつき、あまり兵士達を見ないようにした。
「名乗れもせんような奴を城に入れるわけには行かぬ。まずは名乗られよ」
「どうせ名乗っても判らない。直接会って話したいことがある。其処を退け、勲瑛」
 兵士達が途端に色めきたった。
 勲瑛、と呼ばれた男は、背後の兵士達を片手で制し、羅城を見据えた。
「――私の名を知っているのか。光栄だ。だがな、通すわけには行かぬと申した。天朱坊殿に会わせるわけには行かぬ」
「やりかた間違えたんじゃねえのか?」
 亮介は更に落ち着かなくなって、小声で羅城の耳元に囁いた。
 羅城は視線を勲瑛に会わせたまま、小声で返した。
「此処はどんな方法で入って来ても一緒だな。門から手順を踏んで入って来ても、ここで必ず足留めされる――」
 瞬間空気がざわついた。
 兵士達の中央が割れ、その向こうからゆっくりと禿頭の男が歩いて来た。
 左耳からは羽飾りが下がり、色硝子の入った小さな丸い眼鏡を掛けている。
 背中には、大きな刀を背負っていた。
「どうした」
 つい今し方までざわついていた兵士達は、今は無言で彼を見つめていた。
 勲瑛が男に耳打ちをした。
 男は勲瑛に頷き、それから不躾な二人組を見つめ、何かを認めたのか、僅かに左目を眇めた。
「私に会いに来た、と」
「――はい」
「そうですか。いいでしょう、着いて来なさい」
 男は二人を促して、もと来た道を戻って行った。
 
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