++++ワンダーフォーゲル++++ †++PARADAISE OVER ANNEX++†
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もう何処をどう歩いたのか、亮介は覚えるのを止めた。
どうせ元々方向感覚には明るくない。
置いてかれないように気をつければいいのだし、迷子になったらなったで、その辺の者を掴まえて連れてって貰えばいい。
とりあえず片側は大きな石窓が連なっていて、息苦しさだけは無かったから、もういいやと朱里に遅れないでついてゆくことに専念した。
「なあなあ、あんたも付いてきてくれんの?」
前を歩く大きな背中は「ま、仕方ありませんからね」と手をひらひらとさせて、振り向きもせずに進んでいく。
やがていい匂いのする部屋の前に立つと、二度ノックして、返事を待たずに開けた。
「天朱坊様、どうなさったんです?」
いい匂いは、部屋の奥の鍋から立ち上っていた。
外から見たよりも広い部屋で、多くの者が忙しく働いていた。鍋は多いし、あちらこちらに積み上げられた食材の量はまさに山。
雑然とした中で真っ先に響いた声は、馬鈴薯の山の影から発せられたものだった。
「あらその子は何方? 随分可愛らしいお客人ですこと」
「茗榛娘娘、此方は亮介。亮介、此方は茗榛娘娘」
茗榛は呼ばれると、馬鈴薯の山からひょいと姿を見せ、ちょこんとお辞儀をする。彼女は黒髪を後ろでひとつに纏め上げていて、大きな黒い目でにっこりと微笑んだ。
背は亮介の腰程度しかないが、容貌は妙齢の女性のそれだった。美人ではないが愛嬌のある可愛らしい貌をしている。
古めかしい型の中華風の衣服は、見ている此方を安心させるような生成の素朴さでもって、彼女の柔和な表情を引き立たせていた。
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