++++ワンダーフォーゲル++++ †++PARADAISE OVER ANNEX++†

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「大したことじゃない、少し休めば――」
「治します。少し黙れ」
 大きな掌で喉を覆う。亮介はそのままその手に力を込めてしまうのではないかと、漠然と思った。
 朱里の表情は、自分や我頼、茗榛を前にした時とまた違う。
 どれとも重ならず、何か重苦しいものがある。
(そうか、緊張感だ――)
 腹の底に沈むような、暗い緊張感がある。
 最初に会った時から、柔和に笑う貌のどこかにちらとそれが垣間見えた。
 羅城と相対した時にだけ漏れる、蔭のようなものだ。
「――すまない」
「構わない。氷菜、」
 びくりと、氷菜が身を震わす。小さく開いた唇から、か細い息が漏れた。
 朱里は溜息を吐いて、彼女の肩を叩いた。薄水翠の眸からひとすじ、涙が零れる。氷菜はそのまま朱里の胸に顔を伏せ、小さく肩を震わせたまま、声もあげずに泣き続けた。
 羅城はゆっくりと身体を起こすと深呼吸を繰り返し、それから首周りを確かめるように摩った。
 氷菜を見つめ、朱里と目を合わせ、かぶりを振る。朱里が頷き、亮介に何か云いかけたとき、かつん、と扉を叩く音がした。
 朱里が「入れ」と応えると、軋みをあげて重い扉が開く。
 硝子灯の灯りにぼんやり、大きな影が浮かぶ。
 もっさりとしたその影は、異様に長い胴を折り曲げ、両手と頭を地面につけてお辞儀をした。その状態のまま、一言たどたどしく云った。
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