粛霜

□シフク
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はらはらと落ちる六花の華

そっと掌差し出せば

とけて姿は消え失せる

まるで

存在さえもしていなかったかのように


















シフク


















今夜はクリスマス。
トナカイに橇を引かせて空を飛ばすなんて動物虐待にならないのか不思議に思う荒業をやってみせる、
その色しか知らないのかと訊ねたくなるほど赤ばっかりの服を着て、
基本煙突からという泥棒も驚きの方法で不法侵入して盗るのではなくプレゼントを置いていく変なおじさんが活躍する日。
本当はどこかの神様が生まれた日らしいが一般人はそんなこと気にしない。
要は騒ぎたいだけなのだ。

今年は雪まで降って、街中ホワイトクリスマスだって浮かれてる。
雪の何がいいんだか。
それに、これくらいじゃあ積もらない。
これ見てる子供は明日の朝不平不満を言って親を困らせるんだろうな。

今の彼女と俺みたいに。

「なぁ、エルシア」

「……」

さっきからずっとこの調子だ。
バイトから帰ってくればストーブの前で毛布に包まってる恋人。
よっぽど機嫌が悪いのか話しかけても返答なし。

「エルシア」

「……」

近付いて顔を覗いてもすぐに逸らされてしまう始末。
何が彼女をここまでさせているのかわからない俺はただただエルシアに話しかけるだけだった。

「…どうしたら機嫌直してくれるんだ?」

結局何言っても無言しか返ってこなかったので諦め半分で呟いた。

「……、」

「ん?」

「…ケーキ、食べたい」

やっとしゃべったと思ったらケーキですか。
しかもこの雪降る中買って来いと。
…まぁ、可愛い恋人の頼みだ仕方ない。

「ケーキ、何がいい?」

途端眼を輝かせてエルシアは何かを考え始めた。

「…ショートケーキ、がいい」

色々考えて出した答えなんだろうけど、瞳がまだ迷っていた。

「もう1個くらいならいいよ」

「!じゃあミルフィーユも」

即答で返ってきた。
つくづく俺ってエルシアに甘いなぁ。

「わかった。じゃあ俺買ってくるわ」

でも、エルシアの笑顔見たらそれでもいいかなんて思ってしまう。
それほどまでに俺は彼女が好きなんだと考えると少し照れた。

あれ、財布どこ置いたっけ。

「ぅわあっ!」

まさか飛び付かれるだなんて思っていなかった俺はそのまま勢いに逆らえず床に倒れた。
反射的に出た手のおかげで顔を撃つのは免れたが。

「っつ、エルシア、大丈夫か?」

俺の上で俺と同じように倒れているエルシアはどこか痛むのか、なかなか顔を上げない。
ひとまず寒くないように足元に落ちていた毛布をかけてやり(きっとこれ被ったまま突進してきたのだろう)、そっと髪を撫でる。

「ケーキなんていらない」

俺の服をぎゅっと握ってエルシアは言った。

「ケーキなんかより、ジェイスが傍に居てくれる方がいい」

可愛い恋人の突然の告白に照れるも、寂しい思いをさせてしまったんだと反省する。

「それじゃあ今から買い物して、2人でケーキ作ろっか」

そう言う俺にエルシアは顔を上げ、花のように微笑んだ。




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