粛霜

□赤頭巾パロ
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某所の某家に一人の少年が住んでいました。
母親と二人で暮らしているその少年の髪は紅く、まるで紅い頭巾を被っているようなので周りからは『紅頭巾』と呼ばれてました。

ある晴れた日。
紅頭巾は母親にお使いを頼まれました。
森の奥に住んでいるお祖母さんのお見舞いに行ってほしいとのことです。
お祖母さんが大好きな紅頭巾は喜んで、

「ソレジャア、行ッテキマス」

…反抗期でしょうか?見事な棒読みです。
でも残念ながらこれは決定事項なので、さっさと諦めちゃってください。

「ジェイスー、こんなの放っておいて遊ぼうよー」

お母さん、こんなのとか言わないの。
それに、ちゃんと役名を言ってください。

「えー、めんどーだし」

面倒とかも言っちゃ駄目!

「何でナトアがここに?」

「母親役だよ!友情出演ってやつ」

「なるほど」

台本に書かれてる台詞以外喋るなぁ!!

「わかったよ、もう。じゃあ早く帰ってきて遊ぼうねー!寄り道とかしちゃダメだからねー!」

何で最初なのにこんなに疲れるんだ。

あー、気を取り直して。
ぶんぶんと千切れそうなほど手を振る母親に背を向けて紅頭巾は家を後にしました。

暫く歩くと森の入り口に着きました。
ちなみにお祖母さんの家はこの森の奥にあります。

「なー」

…何でしょう?

「俺、手ぶらでいいのか?」

それもそうだ、お見舞いですもんね。
えー、紅頭巾の手にはバスケットが。
中には葡萄酒と手作りのパンが入っています。

「わ、出てきた」

便利ですねー。

「てか、病人に酒かよ」

あまり気にしない方向にしましょう。

森の中を歩いていると誰かが樹に凭れて立っています。

「何処へ行くんだ?紅頭巾」

話しかけてきたのは銀の毛並みの狼でした。

「ちょっとそこまで」

「仮にも赤頭巾役なんだ。もうちょい子供らしくしろよ」

「そう言う李朧は狼役か」

「応よ」

狼は紅頭巾がお祖母さんの家に行こうとしているのを知り、二人を食べてしまおうと企みます。
その為にはまず紅頭巾より先にお祖母さんの家に行かなくてはなりません。

「えー、面倒」

お母さんと同じ事言わない!

「ったく、しゃーねーな。おい、ジェイス。花摘んでけ、花」

だから役名言えって。

「何で」

「そういう流れだからだよ」

「…わかった」

狼に案内され、紅頭巾は花畑へ向かいます。
男二人が花畑で花摘む光景は虚しい以外になく。
それでも二人は気にすることなくお祖母さんにあげる花を摘みました。

「お前器用だな」

「こんな物楽勝だって」

そう言う狼の手には摘んだ花で作られた冠、指輪、首飾り。
作っては紅頭巾に渡し、渡してはまた作るため、紅頭巾はどんどん花まみれになっていきます。

…あのー。そろそろお祖母さんの家に移動してくれません?

「おっと、忘れてた」

「どうした?」

「いや、天から声が。ちょっくら行ってくるわ」

「?おー、じゃあな」

紅頭巾がせっせと花を摘んでいる間に狼はお祖母さんの家に辿り着きました。

「婆さん邪魔するぜ。って」

家の中ではお祖母さんがベッドの上で横になっています。

「なんだ。婆さん役は鶺か」

「煉は狼ですか」

「応」

「耳まで付けて」

「尻尾もあるぜ」

「随分と楽しんでいますね」

本当に皆自分勝手だな。

「そう言えばよ」

今度は何ですか。

「オレ、どうやって婆さん食うんだ?」

…え?

「流石に人間は食えねぇよ」

そんなカニバリズム期待してないよ!普通に考えろ、普通に!

「隠すだけで良いんですよ」

お祖母さんの言う通り。

「んー…お、良い物見っけ」

そうこうしている間に、紅頭巾はお祖母さんの家の前までやって来てしまいました。

「李朧が狼、残るは焔火と明藍。どっちが何役なんだろう」

そんな裏側を気にしなくても良いんだよ。

「お祖母さーん、まだ生きてますかー」

え、何言ってるの君!

「あ、死んでる、そう、じゃ帰りまーす」

そんな薄情な孫がいるかぁぁあああ!
面倒だからって帰るな!
ここまで来といて投げ出すなぁ!

ガチャ。

「ぅわあ?!」

回れ右をして帰ろうとした紅頭巾は扉の向こうから伸びた手に引っ張られていきました。まる。
…って、台本にこんなのなかったよ?!
ちょっと猟師さん!

「もう俺出番?」

妙に違うけど、あれ?銃は?

「俺にあんなの使える訳ないだろ」

だからって持つだけ持とうよ。猟師役なんだし。

「網と迷ったんだがな」

それは『りょうし』違い。
にしても刀はないでしょ。

「斬れるから大丈夫」

斬っちゃダメだよ。
寧ろ危険度上がってるじゃん。
狼以外に他の人もいるんだから。

「それなら銃の方が危なくないか?」

ああ言えばこう言う。
そもそも本当に撃ったりしないんだよ。
相手は狼といっても役なんだから。

「結局狼は、誰がやってるんだ?」

え、李朧だよ。

「…悪い狼はいねェかー!」

猟師は勢い良くドアを開け中に乗り込んでいきました。
斬る気満々じゃねぇか、おい!!
…凄い心配だ。

家の中は見るも無惨な状況に。
血で真っ赤に染まり、返り血を浴びた狼がベッドを占領、してる訳ではなく。

「…何してるんだ、お前等」

「「「え?」」」

部屋に散らばるのは長方形の紙。
赤と黒の文字。

「「「何って、トランプ」」」

紅頭巾とお祖母さんと狼が円になってページワンをしていました。




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