紫色の旅
□紫色の旅 〜みずめの泪
2ページ/84ページ
ー 壱 ー
「……ふぁ〜〜あ……」
未だ夜の明け切らない薄闇の中、一つの影が起き上がった。大きな欠伸を一つすると、ぐいーっと腕を伸ばして唸り声を上げる。また出そうになった欠伸を噛み殺し、気怠そうに立ち上がった。
右肩をぐるりと回して首を左右に曲げる。小さくコキコキと関節の擦れる音がした。左肩に手を置きながら、少しだけ躯を左に傾ける。躯を反らせばオヤジくさい呻き声が口から漏れた。
「ぅあ゛ーーーぁ……もう一眠りしよっかなぁ……」
ぼそりと本心が口をついて出た。眠い、正直眠くて眠くて仕方がない。
だがそんな呟きを零してしまえば、途端非難の声が上がるのだ。
「ダメだよ!」
小さなぼやきに反論するのは、まるで小さな子供のように高く可愛らしい声音。しかしそれを予想していたのか、全く動じずに声の方をちらりと見やる。
面倒そうに「何でよ?」と、そう言った顔は実に不服そうに歪んでいた。声の主は影の言葉にいささか憤慨したように言い返す。
「なんでじゃないよ、もう!朝になったら動くって言ったの、忘れちゃったの?!」
自分で言った事くらい覚えててよね!と、強い口調で言ってみれば、影は未だ眠たそうに目を細め、欠伸を零して聞き流していた。頭に来たのか、更に口調を強めて言いたてる。
「ほら!しゃんとしなってばぁ!まさかここに来た目的も忘れてないよね?自分で約束したんだからちゃんと守らなきゃ!」
ガミガミと叱りつけるように言ってやれば、少々不機嫌そうではあるものの、渋々といった顔で、
「あーはいはい……」
面倒くさい。そう主張するような大きな溜め息と、それに加えて明らかにどうでもいいという生返事。それを聞いた途端、片眉を思い切り吊り上げて食い下がった。
「あ!何、その生返事ぃーーー!?」
憤慨した様子で文句を垂れる声。それを手で制する。
「わぁかってるって!ちょっとしたジョーダンよ。」
面倒そうな声で言いながら、脇に置いてある巾着状のバックを手に取った。声は納得がいかないのか、ブ〜〜!と拗ねたように口を尖らせる。
「半分本気の癖に!」
拗ねた声に、困ったような顔を向けた。
「拗ねないでよ!ほら、もう行くわよ。」
置いて行かれたいの?と、そう言いながら、影は既に歩き始めている。声は慌てて影の後を追った。
「あ!ヒドいよ!!置いて行かないでよ〜〜!!」
夜が明けている。街は既に動き始めていた。