小説


□二人の思惑
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    1995年 8月6日

 暑い夏の日。
私は今、神崎という家の別荘で住み込みで
働いている。
何故こんなところで働いているかというと、たまたま困っている人がいて、
助けたら実はお金持ちの方だった。
といういかにもフィクションの世界に
出てきそうな話が本当にあったからだ。
しかし、働いているのはいいのだが
この屋敷、私含めて二人しかいないのだ。
私と神崎家のお嬢様「神崎美紀様」だ。
今は大学生とのことだ。
実のところ、私はこのお嬢様が嫌いだ。
育ちが貧しかった私はこういう人間を見ていると無性にイライラしてくる。
見ているだけならまだ何とかなる。
しかし、前にも述べたように一緒に暮らしているのだ。
この仕事は8月1日から同月31日まで。
たったの6日で私のイライラは極限に達していた。
「早くこの仕事を終わらせたい。そして、こいつの前から姿を消したい。」
私は仕事の最中もずっとそんなことを思っていた。
とうとう私は仕事を途中で投げ捨てることにした。
お嬢様に話そうと思い駆け足でお嬢様の部屋へ向かう。
辞められる喜びで軽くステップのようになっていたかもしれない。
ドアをノックし中に入り辞めさせてくれるように頼んだ。
理由は適当に家庭の事情などと言っておけばいい。
しかし、世の中そう上手くはいかないものだ。
きっぱり断られた。
私は愕然とした。
断られるとは夢にも思っていなった。
これでは帰れない。
言ってなかったかもしれないが、この別荘
実におかしな場所に立っているのだ。
長野県のとある山の山腹である。
車などはなく、お嬢様が電話で迎えを頼まなければ山を降りることはできないのだ。
無理に降りようとすれば迷子になるだろう。
そして帰らぬ人になってしまうかもしれない。
お嬢様の部屋を出て私は考えた。
「他に仕事を辞められるいい方法はないものだろうか?」
このままここで暮らしていたらいつか犯罪を犯してしまうような気さえした。
犯罪を・・・・
「そうだ、犯罪がおきればいい」
これが結論だった。
そうすればお嬢様は必ず電話で人を呼び、この別荘から出ることになる。
しかし、本当に犯罪が起きるのはまずい。
そこで私は偽装することにした。
ー強盗かなにかが山に迷い込みこの屋敷を見つけて襲ったー
と、いう風に見せかければ良いと考えた。
決行は今晩。
まず、自分の両手を後ろ手に縛って布団の上に横になる。
窓の鍵は開けておく。
これだけでいいのだ。
朝になって私が起こしにこなければお嬢様は私の部屋まで来るだろう。
そして私の姿を見て驚きあわてて人を呼ぶだろう。
明日の朝が楽しみだ。

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