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□∞03.5
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「達海先生、いますか」
「あ、赤崎。どったの」
英語科準備室を覗いてきた赤崎が杉江を見、眉を潜めるがすぐに片手に持っていたジャケットを達海に渡す。
「ジャケット、中庭に落ちてたんスよ。
探してると思って届けにきたんスけど」
「まじで!さんきゅー!!俺超探してたの、」
今日気付いたらなくなっててさ、探してたんだよと達海が笑う。
「なに赤崎、誰の授業サボってんの?」
「後藤の数学っス」
「ごとーカワイソー」
はははと達海が声をあげて笑った。
赤崎は杉江をちらりと見てからじゃあ行くんで、と準備室から出ていく。
「ジャケットなくしてたんですか?」
「うん。なんか最近年取ったせいかそこらへんに物落としても気付かねーんだよ、俺」
よかったよかった、と達海が大切そうにジャケットをそばにある棚へかける。
そういえば今日は達海はずっとシャツ一枚で寒そうだったな、と杉江は思った。
「これはさ、俺がむこうの学校行った時そこの生徒達が俺にくれたもんなの」
むこうの学校とは達海が最近までいた外国の学校のことだろう。
目を細めて達海がそう言うのを杉江はただ見つめていた。
「……なに?」
「なんでもないです」
思わず見惚れてました、
と言えば達海はそんなことオッサンに言うんじゃねーと笑って掃除を再開すべく、そばにある段ボールを畳んだ。
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「アイツしぶてーな、」
「なかなか骨のあるセンセーだよな、達海センセイって」
「はははっ」
「!」
…なんだ、アレ!
ちょうど職員玄関の前を歩いていた椿が上級生が三人 教師の下駄箱を囲んでいるのを目にする。
反射的に物陰に隠れるとその様子をうかがった。
…達海センセイって、あの、達海先生!?
「それがアイツさ、自分が物落として気付いてないだけだと思ってんの!
まじおもしろくね?」
「はははっ、俺たちが頑張って隠してあげてんのにひどーいっ」
「アイツ二年のジーノのお気に入りだとかで調子乗ってるしよー」
「!」
…ど、どうしよう、
あわあわと椿が物陰から様子をうかがいながら慌てる。
相手は上級生だ。
でも、
「靴隠したらどうなんのかな」
「落としたの気付いてなかったって言うんじゃね?」
「はははは、ウケるわソレ」
「――――……ッ!!!」
…ダメだ、もう限界。
そう思った椿が物陰から飛び出して上級生に駆け寄ろうと足を一歩踏み出した瞬間、
その三人に歩み寄る人物が視界に入った。
「……あれって、」
……杉江先輩?
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