KING OF THE MOON
□●
2ページ/2ページ
足の古傷や“太陽の力”が有ることから戦いにまだ参加していないのはどうにももどかしく、それならばと達海は此処最近“太陽の力”を使って試していることがある。
この力は『浄化』とは違って外に出すものではないから闇に感付かれる心配もない。
「本当に未来が視えんの?」
「それが本当にこれから起きるかどうかはわかんないけど、視れる時があんの」
太陽の力には未来を『予知』できる力がある。
それをやりすぎると体力を消耗しすぎてぶっ倒れてしまうのだが――持田とこうして話す様になったのも力を使いすぎてこうなったわけで――仲間が傷つくよりは安いものだと達海は思っている。
後藤なんかは心配性だからこの力はまだ持田にしか明かしていない。
「あー…でも、最近は同じものばっかり視るんだよね」
「どんなの?」
持田は立ち上がるとデスクの上にカップを置いた。
達海は「んーと」と眉間に皺を寄せて思い出そうと目を泳がせる。
「赤い血溜まりが広がってて、その中心で誰かが呆けたように座り込んでんの。そんで、そいつと目が合って、あと、銀時計の針が……あれ、そういえばそいつ、」
「はい、そこまで」
持田がぱん、と達海の前で両手を合わせるとかくんと達海の膝が崩れた。
意識を失った達海の体を持田は横抱きにして医務室のベッドへと寝かせる。
「―――…本物みたいだね、その力は」
侮れないなーと持田は笑みを浮かべるとベッドに腰かけ達海の顔を覗き込む。
髪をすくうとその口許に唇を寄せようとした。
「なにしてるんだ、持田」
「わ、ちょー空気読んでないね、堺さん」
眉間に皺を寄せて自分を見ている堺へ持田は笑みを浮かべるとベッドから腰をあげた。
「用件は?」と問いかけると堺は「通りかかっただけだ」と持田を睨み医務室から出て行く。
やれやれ、と持田は肩をすくめると医務室の椅子に座って冷めた珈琲を口に運んだ。
『また均衡が崩れた』
『扉はちゃんと閉まっているのか』
『閉めたはずだ、あそこはちゃんと、』
『では、何故』
『やはり満足させるためにはそれに見合う神器を』
『!そんなことをすれば逆に向こうの勢力を』
『完全に閉じればよいのだ、完全に』
誰かと誰か、複数の者達が言葉を交わし合うのが聞こえる。
そこにいる男達はどこか切羽詰まったような顔で言葉を紡いでは何やら難しそうな顔をし、また言い争いを始める。
10人の者達は最終的にその内の一人が『仕方ない』と呟くともう一人が『それでは』と言って座っている椅子から立ち上がった。
『人柱を、用意させろ』
『お、ちゃんと全員集合してんじゃん』
どこかの空間に一人の男がカツカツと靴の音を響かせて現れる。
その場には男を含め10人の黒いフードで顔を隠した人間がそろっていた。
『攻防戦はどーなってんの』
『相変わらず互角だ』
その内の一人が応えると男は目を細め『へぇ』と呟く。
ぴょこぴょこと動き回っている一人をそばにいた一人が首根っこを掴み『うろちょろすんな』とため息交じりに言った。
『そっちはどうなんだ』
『んー、まぁ、一人ちょっと面倒なのがいるけど…あ、一人じゃなくて10人いるけどうまくやるつもり』
だから“その時”までうまくやってよね、と男は愉しそうに口許を緩めて言い『じゃ、お開きね』と手を振った。
ふ、と目の前の景色が変わる。
「―――…ん、持田、」
「あ、起きた?達海さん」
椅子から立ち上がった持田が起き上がった達海に歩み寄ると、達海はどこかぼーっとした表情で持田を見、それから口を開いた。
「なんか、変な夢見た」
「ふぅん、どんな夢?」
「なんか人間が10人いて喋ってる夢」
「なにそれ」
ぎゃははは、と持田は笑いながら達海の目の下にふれる。
「なに」
「あんま力使いすぎるとよくないよ」
「予知の力は意識してなくても使っちゃうんだって」
でも今のはただの夢だったかなーと達海が呟いて持田の手を外した。
そういえば今日は俺だけ守られるのは嫌だと後藤に言い寄り、攻防戦の最前線から少し手前の場所に行く話になっていた気がする。
この浄化の力があれば闇の気にあてられて狂いそうになる奴とかを助けられるかもしれない。
「力を使いすぎるとその時にぶっ倒れちゃうよ」
「わかってるよ」
俺が最前線に出たって足手纏いになるだけかもしれない。
それでも誰かを救える力に、この力がなれるのならば俺は使いたい。
「俺は王様だからなるべく力を使って戦いたいと思うんだよ」
天井に伸ばした手は空どころか星さえも掴めなかった。
孤独の王
(太陽はあまりにも、他の星とは遠すぎて)
→#3