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□そーたいせーりろん
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「……あー」




最近なんだか足がいつもよりも言うこと利くな〜とか思ってたらこれだ、と達海は自分の足を見て舌打ちする。

突然膝を襲った痛みに歩くこともできずしゃがみこむ。
練習前なのに困ったなぁと眉を潜めて達海は思った。

選手たちはああ見えて親切な奴ばっかりだから呼べば助けてくれるだろう、後藤だって普段文句を言う有里だって手を差し伸べるだろう。
だが達海はこの怪我に苦しむところをあまり選手には見せたくなかったし、後藤や有里に心配させるのも嫌でどうにかギリギリまで痛みがひくのを待ってみることにした。








「我が儘だなぁお前も」




達海はため息をつくと地面に座り込んで足を放る。
練習前にコンビニへ眠気覚ましのドクペ買いに行ったのが悪かったんだ、とばかりに足は言うことを聞かず手に持ったコンビニ袋が風で揺れた。

クラブハウスに向かうグランドの手前、門付近に立ち止まっている達海はぼーっと空を見上げる。






「さてと」





我が儘言ったって駄目、と唇を尖らせた達海が立ち上がり歩き出そうとする。
足を踏み出した瞬間、鋭い痛みが走った。






「!いっ…」





やべ、転ぶ。

達海は次に与えられる衝撃に身構えて目を瞑ったが、ふわりとその体を誰かの手が支えた。
チッと舌打ちまでしてみせた相手に村越あたりが助けてくれたのかなと思う。





「なにしてんだ、あんた」


「……アレ」





自分を支えた存在を見上げた達海は予想していた村越ではないことに目を丸めた。
相手があまりに意外すぎる人間だったからかもしれない。






「…んだよ」




さっさと立て。

達海の体を支えた腕を状態が崩れた達海の上半身を起こすように動かしながら、その人間は眉間に皺を寄せている。







「ん、ああ…、ありがと」




呆けていた達海が相手を見上げて笑った。
膝の痛みは依然続いているが――寧ろ強まってきているかもしれない――それを隠すようにしてなんとか立つ。







「めずらしーね、お前が俺なんかを助けるなんて」




道端に倒れてるのを見捨てて行きそうなのに。

達海がそう言えば鼻で笑うようにして腕を仕舞った相手は応える。





「倒れてるところに蹴りだの入れるかもしんねぇな。日頃の恨みもたまってるし」

「怖いねぇ」



「…あんたがETUの監督じゃなかったらな」





それお前らの崇拝するミスターETUにも言われたなぁ。

達海はにへらっと笑ってそう言い、それから「ありがとね」と相手を此処から去るように促した。









「……足」




「え」

「足痛むのか」




ぱち、と瞬きした達海が数秒間を開けてから「ちょっとね」と答えてみせる。







「それがどしたの?」




寧ろ嫌いな奴が痛い思いしてるから清々するんじゃない?

からかうようにそう言えば、相手は眉間に寄せた皺をますます深くした。






「別になんでもねぇ」




相手はそっぽを向くとグランドへと向かっていく。
達海は1テンポ遅れるようにして歩き出した。

踏み出すたびに足へ痛みが走り、足を引きずるように達海が歩いているのをちらりと振り向いた相手が見、なにを思ったのかズンズンと此方に戻ってきた。







「どしたの」

「乗れ」


背中を向けてしゃがみこみ、そう言われたものの流石の達海も戸惑う。





「え、いいよ」

「早くしろ。練習までテキトーやられちゃ困る」




珍しいこともあるんだなぁ。

達海は心の中でそう呟きETUのサポーター、スカルズのリーダーである羽田の背中に体をのせた。






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