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□深夜2:00に産み落とされる涙を拭う
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「……っ、」




シーツが擦れる音と啜り泣くような音を聞いて目を覚ます。

抱き締め合うようにして寝ていた年上の恋人は背を向けて横たわらせている肩を揺らしていた。








「……達海さん?」




ゆっくりと上半身を起き上がらせその肩にそっとふれる。
反応がないことから眠っているのだろう。




ただ、泣いている。






「……っ、」



「達海さん、」





小さい子供はよく夜泣きをする、という話を脳の隅で思い出し自分が焦っていることに気付いた。

この人はいつも飄々としていて弱っているところを見せない。
気丈な人なんだと思っていた。



しかし今目の前にいるのはその年に不釣り合いな、夢の中で泣いている人で。
起き上がりあぐらをかくと、どうしようかと困惑しながらその顔にかかる前髪をすいた。











「……ん、っひく」






子供みたいな泣き方。

ますます心配になって達海さん、と囁く。
ぴく、と達海さんの瞼が反応した。










「……っ、ドリ、」






涙を頬に伝わせたまま、未だ寝ぼけている達海さんが起き上がり抱きついてくる。
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、小刻みに肩が揺れその間に啜り泣く声が響いた。


胸にすがる手は震えている。











「どうしたんだ、達海さん」



「…っ、」






ぐりぐりと額を胸に押し付けたまま達海さんは泣き続けている。
豪快に泣くわけでもなく、ただ啜り泣いていた。









「……っ俺の、足は、ある?」







「達海さん?」






肩を揺らしながら達海さんが問いかけてくる。
泣いているせいで声が聞きづらかった。








「足が、消えた、夢を…っ見た、の、俺の…っ」





かたかたと手が震えている。
その手を包み込み、優しく撫でた。









「……達海さんの足は今もちゃんとあるぜ」








「……っ、違う、ちがう」







ふるふると首をふって、それから達海さんは手を握ってくる。
まるですがりつくように。






「俺の足は、死んだ、だから、っこうなって、こうなかったことを、後悔は、してないの…っ」






「達海さん、」





どうすればいいかわからなくて掴んだ手を引き、体を抱き締める。
あまりにも小さな体だった。








「…っ俺はね、幸せなのっ、だから、そんな顔しないで、」








誰に言っているのだろう。



達海さんは啜り泣きながらそう呟いていた。
きっと夢の中の誰かに言っているのだろう。
この人を責めるのはいつもこの人自身でしかないから。









「だいじょうぶ、俺は、っ俺は、ちゃんと世界に、此処にいるから……っ」









「達海さん」






大丈夫だ、大丈夫。




そう囁いて背中を優しく撫で、それから子供をあやすように叩いてやる。







大丈夫、大丈夫…、






何度も繰り返し囁いていると小刻みに揺れていた肩が落ち着きを取り戻してきて啜り泣く声も小さくなってきた。










「あんたはちゃんとこの世界にいる。
あんたの足は幸せだ。

俺もあんたに会えてよかったと思ってる。
世界はあんたを見捨ててない」






ぐす、と鼻を鳴らした達海さんに安心させるように微笑みながら顔をあげた達海さんの目尻に口づけをする。

それから優しく唇にキスをした。








「達海さんは此処にいていいんだぜ、この世界にいていい。
俺と一緒にいてくれ」





「ドリ、」





こんな恥ずかしい言葉を口に出せるのはあんただけだ、と口許を緩ませる。

きっと寝ぼけていて自分が寝ながら泣いていたことなんて明日には忘れてしまってるであろう達海さんはキスを返してきてから、


腕の中で目を閉じた。






「…ドリ、ありがと、」




消え入るような小さな声に微笑み、達海さんを腕の中に閉じ込めたまま横になる。
すやすやと寝息をたてているその髪を撫でると、額に唇をつけた。










「達海さん、」




幾らあなたが涙を流すような夢を見たとしても俺があなたの涙を拭い、不安を消し去る。
それがきっとあなたの救いになると愚かにも信じているから。








「おやすみなさい」







だからどうか夢よ
(この人をこれ以上責めても意味はないのだから)


この人に涙を産み落とさないでくれないか。




















2:00
夢の中でしか泣けなくするのはやめてくれ






















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