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□とおく、とおく、
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遠く遠く。
離れていても。
この僕がわかるように。
力一杯輝ける日を、この町で迎えたいとおもった。
「………春か」
異国の地である駅のホームに佇み、見えないはずの桜吹雪を目に浮かべようとして目を瞑る。
脳裏に浮かぶのは、此処とは遥か遠くの駅のホームであいつを待つ自分の姿。
桜吹雪が見えるなか待っていたな、とか思ったりして。
「……なんとかやってるよ」
似合わなかったネクタイも、どうしてか似合うようになった。
ぎこちないくらいスーツが似合わなかったあの頃から何年経ったのだろう。
目を開けると脳裏に浮かんだ映像とはまるで違う景色が飛び込んできて、無性に泣きたくなり――だけど決めたことだからと――笑みを浮かべて到着した列車に乗り込んだ。
「…もうざっと十年か」
ノートパソコンを閉じ、息を吐いた。
手元にある同窓会の案内状をあいつが消えてから受けとるのはもう何回目だろうか。
「……」
仕事で行けないし欠席にするかと欠席の欄に丸をつけ、手を止める。
嗚呼、あいつが音信不通になってから、もう十年経ったのか。
デスクの一番上の引き出しには名前だけ書かれている手紙が入っている。
住所がなくても届けばいいのに。
「……元気なのか」
住所なんか必死に探せばわかるだろうに、それをしない自分は随分年をとったものだ。
椅子の背もたれに体重をかけるとギシ、とそれは軋んで。
目を瞑った。
『明日イングランドに行く』
電話をすれば、ぽつりと呟くように電話の相手は言って。
寮の公衆電話の受話器を握る手がぴくりと反応し、思わず落としそうになった。
「…そうか」
あくまでも動揺したと悟られないようにいつも通りの声を発した。
あともう少しで明日は今日になる。
『それじゃ、
「……よ」
『え、なに?』
「いつでも帰ってくればいいよ」
これからイングランドに行っていつ帰ってくるかもわからないのにそう言った電話相手に笑みを浮かべる。
少し泣きそうになったのを感づかれたくなくていつも通りの声を保って「ばーか」と返事をした。
『バカって…』
「にひ、じゃあバイバイ」
『……またな』
また泣きそうになる。
なに言ってんのおまえ。
受話器を握りしめ、思わず飛び出しかけた言葉を飲み込んで微笑んだ。
そんなおまえが好きだよ、
そして、きっと、今も。
その言葉にどこか支えられて、今までやってこれたんだ。
「……遠いなぁ」
夜の景色を眺めて呟く。
異国の地から見える水平線の彼方にでさえ故郷の国は視界に入らない。
ただ脳裏に浮かぶのは、バカみたいに未だ大事に大事に抱えている記憶の断片で。
バーのカウンターに突っ伏してもう一度呟く。
「ねぇこんなに遠い遠い国でさ、」
あいつは心配性だから音信不通の俺が元気かどうかと思ってくれてる ?
「俺は元気に暮らせているよ」
足ともうまく付き合ってる。
あの頃よりは割り切ってるよ。
だけどフットボールはやっぱり一番で、この町で輝きたいと思った気持ちは変わらない。
(だから帰らないよ、)
「……あいつのことだから中身はまるで変わらないフットボールバカなんだろうな」
欠席に丸をつけた同窓会の案内状を見て呟く。
そりゃ懐かしい旧友達を見たいに決まっている。だけど。
俺が今見たいのは一人だけで。
(彼に逢うまではまだそれが過去だとは――認めてしまったらあいつがいなくなったことも過去だと肯定してしまう気がして――思いたくなくて)
「俺は元気だよ、達海」
本当に年ばっかり食って女々しくなったな、と笑みを浮かべて住所の書かれていない手紙が仕舞われた机の引き出しにふれた。
遠く、遠く、
お前の現在からも、
お前の未来からも
離れていても。
お前の隣からも。
お前の傍からも。
遠いところに来てしまったけれど。
元気で暮らせているよ。
「……イングランドで」
だから少しだけ、少しだけ。
此処に来た頃に比べたらお前に元気だと伝えられるようになったから
「カントクやってます、と。」
元気だと伝えてもいいですか。
「よし、」
書いたハガキをポストにいれる。
俺のことがわかるように輝いてみせるよ、太陽みたいに輝いて必ず戻るから。
「じゃ、始めっか」
(水平線の向こうにも見えない遠い国にいるお前にも見えるように)
力一杯輝くのはこの町だと決めたから。
「その光を見つけてお前が迎えに来るのを待ってるよ、後藤」
とおく、とおく、
はなれていてもきっと。
――――――
あとがき!
5月10日は後藤さんの日だと小耳に挟んだのでゴトタツ未満後藤→←達海を…。
内容は槇/原さんの歌「遠.く、遠/く」の桜バージョンを聞いて「あれ、これってゴトタツ未満後藤→→←←タッツっぽくないか」と妄sに拍車をかけられてガーッと書いたものです^^←
ゴトタツは深いなぁと思います。
拙い文にお付き合い有り難うございました!
2011.5.10 天藍 深