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□たつみかんたーびれ♪
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短編ぱろ集」のたつみかんたーびれ続編。
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小さなおんぼろオーケストラ。
突然現れた元音楽界の鬼才。
奏でる音は人の心を惹き付け、放すことはなかった。



事故で怪我をするまでは。



――そして、その鬼才であり天才であった男は指揮棒を手に取った。
奏でられる音を紡ぐ姿は再び人を惹き付け、放さない。

(さぁ、楽しい音楽の時間を―――――始めよう)













ピアノを弾く姿は、今でもはっきりと覚えている。

大学に入ってきたその頃は好き勝手弾いては演奏を滅茶苦茶にしていたこともあったが――思えばその頃から跳ねるように、歌うように、自由に音を奏で人の心を惹き付けていた。
いつか同じ舞台で。そう言っていた大学の頃の後輩を思い出しては、どこかでその願いが叶う日を楽しみにしていた―――世界中を魅了した後輩が事故に遭い、舞台から消えるまでは。




「――――、」




ホールに大きく響き渡る拍手に成田は鍵盤から指を放すと立ち上がり――握手を求めてきた指揮者、平泉の手を握る。

なかなか、良い音楽の時間だった。

ふ、と口許を緩めた――世界的にも有名なピアニストの成田は視界の隅に、観客席にかつて鬼才・天才と歌われた――いつか、同じ舞台に、と目を輝かせていた――男を捉え、小さくその名を呟いた。





「達海…」








「成さん、久しぶり」

「帰ってきたのは知っていたが――本当に指揮者を?」



コンサート後、挨拶もほどほどにしてロビーへ向かうと其処には達海が立っていた。
記憶の中にある姿より一回り小さくなったような気もするし、そもそも落ち着いたような気がするな、と達海の成長をしみじみと感じた成田だったが――その感動も束の間、「成さんちょー久しぶりじゃん」と抱きついてきた達海になんとか足で踏ん張った。





「……忘れていたな、」

「?なにが」





変人と呼ばれる一つ年下の後輩は何故か隣の部屋(ベランダには変な色の液が漏れてくる)。

飯の時間は狙ったかのようにピンポンチャイムを鳴らして現れる(茶碗を片手に)。

一度作ってきた干物は炭(達海の背後霊と化していた後藤とかいう近所の奴に押し付けた)。

取り上げた携帯の待受は俺の寝顔(データフォルダを見たときは警察に突きだそうかと思った)。




「(まぁ達海も年をとったあの頃よりは成長しただろう、)」


「あ、成さんウエスト細くなった?」





――――…前言撤回!!




「早急に離れろ、」

「やだ」




こいつ、まるで変わってない。
成田は自らの貞操を守るため、ぐぐぐと達海の額を押すが達海は達海で成田の体から離れない。
むしろ腕に達海の腕が絡んでくる。





「こら達海、いい加減に」





しろ、と言おうとした成田の目に達海の左薬指へはめられた指輪がうつった。





「指輪?お前結婚したのか」

「あー…違うよ」



面倒くさそうに眉間に皺を寄せた達海はすぐさま――にやりと笑い、「成さんったらジェラシー?」と問いかけてくる。
ああもう面倒くさい。




「達海、はなせ、―――?!」




ぞくり、と成田の背中を悪寒にも似た何かが走る。
すりすりと達海が腕に頬擦りをしてくる傍ら、成田は――自分にのみ殺気を飛ばしてくる人間を見るため振り返った。





「ドーモ、今日は楽しかったデス、成田サン」




威圧感しか感じられない瞳孔かっ開いた笑みを浮かべる持田は――棒読みの言葉を並べると、達海を見る。
あーれれ、達海さん?




「俺さぁ楽屋で達海さん待ってたんだけど?」

「は?なんで俺が成さんよりも先にお前の楽屋行かなきゃいけねーんだよ」



ぎゅ、と成田の腕へ絡む腕に達海が力を込めると持田の纏う殺気がますます強くなる。
貞操よりも生命の危険を感じ始めた成田は「君は達海とどういう…?」とひきつった笑みを浮かべた。



「あー自己紹介が遅れました、トロンボーンの持田っス。
達海さんの恋人です」




へぇ、トロンボーンの…




「―――……恋人?」




まさかそんな言葉が飛び出してくるとは思ってもいなかった成田が達海を見れば、達海は「ちょっとした音符間違いだっての」と達海語を口にしながら唇を尖らせる。
持田は持田で限界なのか額に青筋をたてて成田を睨んでいた。

そしてその修羅場を物陰から見ていたのは―――





「しゅしゅしゅしゅらば…!」

「(も、持田さんコワ…ッ)」

「うわーあれの中入るのは無理だわ、片道切符だわ」

「トイレどこー」

「そこ左行ったとこっすよ」

「じゃあここは夏木さんに」

「俺!?とんだ不意打ちだよスギ!」



達海が指揮棒を振るETUオーケストラのメンバーだった。

物陰から達海と成田、そして持田をみている面々は――「そうだ、遠足行こう、おやつは300円まで。ちなみにバナナはおやつに…入るの?」と突然この公演に来ることを提案した達海が、やけに浮き足立っていたことを思いだし――ああ、そういうことだったのか。と納得したり肩を落としたりしていた。

そんな彼らも我らが指揮者を取り返しに向かいたいのだが――殺気を振り撒き、不機嫌である魔王…持田に立ち向かえる――空気をまるで読まないジーノはこういう時に限って(というよりも空気を読まないからこそ)不在であり、物陰で仕方なく様子見という行為を続けていた。



あーもうどうすんの。

いや、あれは行きたくない。

うぅなんで王子いないんすか!

えーとねそれは王子だからかな

お、もしかしてあれって…


ロビーにいる人間さえ近づかない修羅場に颯爽と近寄る男が一人。
ETUのメンバーはその男がまさかそんな修羅場に突入するとはまるで思っていなく――寧ろそれを物陰から見ながら胃を痛めてるイメージがあった――それ故にその光景に目を見開いた。

まさか、まさかの。




「「―――後藤さん…!!?」」







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