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□続◆たつみ1/2
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たつみ1/2」続編
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達海猛はプロフットボールチームの監督である。
弱小チームで強豪チームを倒すことを何よりの楽しみとするただの――四六時中フットボールのことしか考えない――いわば、フットボールホリックである。

しかし、その――プロフットボールチームの監督でありフットボールホリックの――達海猛は少しだけ他人とは違う体質だった。




「あ、達海さん、避けて!」

「へ」



ぱしゃん、という水の音。
あ、と思ったのも束の間――達海はため息を吐く。




「達海さんだいじょーぶ!?」

「…大丈夫じゃない」



水を浴びる前よりも高くなった声、視界はさっきよりも低くなり、案の定体を見下ろせばでかい山二つ。肩が重い。
―――そう、プロフットボールチームの監督であり、重度のフットボール中毒者である達海猛は、他人と少し違う体質を持っていた。

それは、





「…女になっちゃったじゃん」




水をかぶると女になってしまうという摩訶不思議な体質。
(そしてこれは水をかぶると女になってしまう監督とそんな監督を中心にまきおこるお話―――。)







/








「今日も練習辛かったな〜」

「そっスか?世良さん運動不足すぎじゃないんスか」

「!そういうおまえだってぜぇぜぇ言ってただろ!」




そこ仲良くすんのはいーけど風邪ひくなよー

仲良くなんかないっス!

いつも通り賑やかなのはETUのシャワールーム。
多くの選手が練習後に汗を流すためシャワーを浴びに来ていた。





「あーもう、」

「――――!!!?」



と、そこへイライラとした顔で入ってきたのは我らがETUの監督、達海猛。
普段でさえ「監督!?」と驚く面々は――達海が女になっているのを見、ある者は口笛を吹き、ある者は顔を真っ赤になったりとシャワールームが騒然とする。




「わり、ちょっと貸して」

「うぇ、達海さ、なんで女!?」

「水かぶったんだよ」



椿からシャワーを引ったくり、達海が頭からお湯をかぶる。
あ、もったいねー。石神がそう言うのを聞きながら――達海は自分の体がもとに戻ったのを確認して――思わず、「はぁ?」というような間抜けな声を出した。






「……んで、」

「…あれ、達海さんって、お湯かぶれば戻るんじゃ――」





確かにお湯にぬれた達海が自分の体を見下ろす。
タンクトップの中を見ると――「わっ!」と横で椿が顔を真っ赤にして叫んだ――二つの山が。






「……元に戻らない!!?」







嘘だろ!
そう叫んだ達海が今度は水を出し頭からかぶる。




「…ぶ、へくちっ!」



「た、達海さ、」

「……戻んねぇ、」

「え、」





「男に戻らなくなった!」




どーしよ椿!若干涙目な達海が椿の肩を掴み――達海の谷間を目撃した椿はとうとう耐えることができなくなり、倒れた―――。










♀♂








「ぎゃははは、そんで?
何をしても戻んないわけ?」

「……うっせー」


「女」である時だけ、達海の(偽)恋人である持田が達海を指差して笑う。

あの後、嬉々として盛り上がる選手たちに風邪をひくから着替えろだの(これは堺)、セーラー服を着ろだの(言わずもがな石神と丹波)、女がそんな格好するな有理ちゃんから借りてきたからだの(後藤あの野郎)、面倒くさくなった達海はとりあえず――周囲に恋人のフリをしてもらってる(何故か持田はフリではなく「俺は、今は女の達海さんの恋人」とか言っているが)持田を呼び出したのだった。




「そんで、広報さんの服着てるんだ?」

「あいつの服、胸がキツいからジーノがくれた服着てる。
下着もジーノに押し付けられたのをつけてる」



つかなんでアイツ女の俺のスリーサイズ知ってんだよ。
ピッタリなんだけど。

ぎゃはははは!

依然笑い続ける持田の鼻を達海がつまむ。
いひゃいって、ごめんってぱ。




「で?なんで戻れないわけ?」

「…わかんねぇ」




あークソ、
舌打ちをした達海が頭を抱え、持田はそんな達海を面白そうに眺めていた。




「試合いつだっけ?」

「…三日後」

「それまでにはどうにかなるんじゃないの?よかったじゃん(どうにかならなくても全然いいけど)」

「おまえ言ってることと表情があってないんだけど」



舌打ちさえしてみせた持田を達海がにらむ。
睨まない睨まない、可愛い顔が台無しだよ。うるせぇ。



「…ま、今日はオフだし、なんもなければ

「達海さん、携帯鳴ってるよ」



あー…、はいはい。
(半ば無理矢理)有里に持たされた携帯を達海が取り出しメールを見る。



「…あ、『泉だより』じゃん」

「『泉だより』?」


「俺が落ちた泉の管理人が落ちた奴に毎月送ってくるメールだよ。
大体誰が落ちて何になったか、とか内容はくだらないんだけどね」


ぎゃははははは!ナニソレ!
腹を抱えて笑い出した持田に達海はため息を吐き、メールの本文へと目を戻した。




「……え?」





メールを見ていた達海が固まる。




「なに、どしたの」

「なんか…戻れなくなってるのは俺だけじゃないっぽい。
…みんな、戻れなくなってる」




どれどれ。

持田が手を伸ばし、達海の手から携帯を取った。
しかしすぐに――その本文が英語であったため――達海に携帯を返す。




「で?」

「ウン、おまえのそういうとこ嫌いじゃないよ。

…だから、泉が涸れかかったり溢れたり変になってて、それが影響してんのか他にも水浴びてから戻れない奴がいっぱいいるって書いてある。
戻り方もちゃんと書いてある」




ふーん、つまんね。

持田クン、あのね…





「なんか心配して超損したから責任とって!」

「無茶ぶりだろ」




全く、とため息をついた達海がそれまで座っていたブランコから立ち上がる。(達海が持田を呼び出したのはクラブハウスの近くにある小さな公園だった。)
キィキィと持田がつまらなそうにブランコを揺らしていた。




「ったく…じゃあ戻り方もわかったし、さっさと後藤あたりに頼むか」

「へー、なにを?」




「キスすれば戻るんだって。
話聞いてくれてあんがと」




じゃあね……って、なに?

ぐぐぐとジャケットの裾を掴んで離さない持田を振り返る。
見たことがない威圧感マックスな笑みに達海は固まった。





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