∞
□∞07
1ページ/5ページ
生きるために笑うことしかできない自分と笑うことでしか生きられなかった王様。
その二つはあまりにも。
あまりにも酷似していて、あまりにも対極だった。
親の顔は覚えていない。
気付いた時には或るサーカス団に売られていて、道化師として観客の前で笑みを浮かべていた。
買われた身である道化師の境遇はお世辞にもいいとは言えなくて、骨の髄まで「見世物」として金稼ぎの「道具」として、家畜以下の扱いを受けていた。
そのまま死んでいくと思っていた。
あくる日、道化師のいたサーカス団が国を治める王様のいる城に呼ばれ、サーカスを見せるという催しがあった。
無事に公演が終わり、道化師は用意された客室に泊まることさえ許されず、どうしようかと思いながら城の中庭をふらふら歩いていた。
『ねぇー』
『!』
突然話しかけられて吃驚する。
道化師が声の聞こえてきた後ろを振り向くと噴水のそばに王様が立っていた。
月明りに照らされる景色の中で王様が笑う。
『あのさぁ、アレやってよ』
『アレ?』
玉を手の上で何個も回してたやつ、と王様が手振りを交えながら言う。
ああ、と呟くと道化師はポケットに入れていた玉を何個か取り出し、宙へと放った。
それをくるくると受け取っては投げ、投げては受ける。
『よっと』
一個ずつポケットにそれを仕舞っていき最後ポケットから出した、握りしめた拳を王様へと差し出した。
なに?と覗き込んできた王様に道化師は手の中から一輪の小さな花を見せる。
『…は、はははははははっ』
そんなに笑うところでもないのに声をあげて笑っている王様に目を丸めていると、王様は十分笑い終えてから『決めた!』と大きな声をあげた。
王様は悪戯を企む子供の様な笑みを浮かべている。
『ねぇ、俺の城に住んでよ』
道化師の決められていたはずの生き様を、結末をその人は簡単に壊してしまった。
[旅芸人と王様。]
∞
俺の中には物心ついた時から体験したことのない記憶があって、最初は夢の話だと思っていたけれどこの学園に来てその考えは変わった。
二年生になった頃、目つきの悪い新入生と王子様みたいな雰囲気を醸し出している新入生を見た時、「お」とどこかで気付いたからだ。
こいつらは初対面じゃない、夢の中にいた奴らの生まれ変わりだ、と。
だから最上級生になって、新しく入って来た英語科の教師を見た時も何かに気付いた。
ただそれは「お」で済まされるものではなく、「ビビビッ」と魂が反応?するような感覚でその人が前世の俺が想っていた王様だと悟った。
なんて運命的!………なーんてね。
「たぁーつみ、せぇーんせーい!」
「!!」
中庭をのんびり歩いていた達海がバッと周辺を見回し、咄嗟に木陰へ身を隠す。
バタバタという駆け足が中庭へと向かってくる。
「…アレ、確かにいたんだけどなぁー?」
おかしいなぁと駆け寄ってきた持田が首を傾げ、中庭から去っていく。
気配を殺すように身を潜めていた達海は「はぁー」と安堵のため息を吐きそれからゆっくりと木陰から身を露わにした。
「ったく、テスト以来何かとほーびをねだってきやがって…」
しかもそれが持田だけじゃなく、ジーノや赤崎、杉江までいるもんだから身が持たない、と達海は過去の自分を呪った。
中庭を出て廊下を歩いているともう授業は始まっているのに目の前から一人の生徒が歩いてくるのが見えた。
よぉーく目を凝らすとその生徒が赤崎だということに気付く。
.