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複雑に絡み縺れ合った糸は物語を動かす歯車さえも捉えていた。
ぱらり、ぱらり、と糸が解かれていくうちに少しずつ少しずつ歯車も噛み合っていく。








かちり。








ほら歯車が噛み合った。
(あとは、ただ廻っていくだけ)








もう誰も、止められない。























[]
















「プール開きかぁ、もうそんな季節か」



初夏のにおいを運ぶ風が達海の髪や頬を撫でるように流れていく。
そんな達海の前ではとある生徒が一人、不満げな顔をしてデッキブラシを持ち佇んでいた。




「…達海せーんせ、」


「持田、手止まってるよ」




はい動かすー、と達海がぱんぱんと手を叩いたが持田は依然やる気のなさそうな顔のままテキトーに手を動かす。



二人がいるのは学園のプール。

達海がプールサイドに腰かけ、持田はまだ水のないプールに一人でデッキブラシを持って掃除をしている、という図だった。




「そんな顔したって仕方ないじゃーん。
門限破りすぎなのと頭髪と服装が検査に引っかかってペナルティとしてプール掃除することになったんだから」


「担当が達海せんせじゃなかったらサボってるよ」




惚れた弱みだよね、と持田が吐き捨てる。

ズボンを捲り上げ、シャツの袖も捲っている達海はぱたぱたと団扇を仰ぎながら「にひひ」と笑った。






「お利口さんじゃん、持田」




「今ちょーっと不機嫌だから達海せんせでもそれ以上言ったら犯すよ」






ぎゃはっと魔王スマイルを浮かべた持田に達海は特に怯える素振りを見せずに肩をすくめると、ホースを手に取りプールへ降り立った。

楽しそうにホースから出る水をプールに撒く。







「おー、虹」


「達海せんせ、ガキっぽいことしてないで水ちょーだい」




ほら、と達海が持田の方へホースを向けて歩き出した瞬間、足を滑らせた。
思いっきり水をかぶった達海が「あーあ」と呟くと持田はそんな達海を指差して笑った。





「ぎゃははは、だっせ!」


「うるせーな、もう若くないの」




どーしよ、とシャツをつまんだ達海が持田を見ると、持田は笑い終えたのか達海に歩み寄って「わー」と呟いた。

「なに?」と持田を見た達海に持田は着ているTシャツを脱ぐとそれを押し付けた。







「達海せんせーえろい。犯しちゃいそーだからこれ着てなよ」


「ご親切にドーモ」






達海がシャツを脱ぎ、それを絞ると持田のTシャツを着る。

「あ」と達海が持田の露わになった上半身を見て声をあげるとデッキブラシを取りに行っていた持田が振り返った。





「なに、惚れた?」


「違うっての、その傷」






ああ、と持田が自分の右腕の付け根にぐるりを一周かけてある傷痕を見て顔をしかめる。





「前世で受けた傷っていうの?
ほら、言ったじゃん?俺、前世で王子様に右腕斬りおとされてるからさぁー」





達海せんせにつけられたものなら夜のおかずにできるのにねー、と持田が特有の笑みを浮かべて言う。

普段ならそこで「持田クン不純」とか言う達海が何も言わずに黙ったのを不思議に思った持田が「達海せんせ?」と名前を呼んだ。






「…あ、あー、持田クン不純」



「??達海せんせ、顔色悪くない?」








んー…大丈夫だよ、と達海が笑いホースを手に取る。







「そんじゃ早く終わらせよっか」







達海はいつもの笑みを浮かべるとホースの口から出る水を宙に撒いた。








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