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まだ幼かった頃、父に連れられて大きな城の一室へ通された。
そこにいたのは自分よりも幼い子供で、面倒を見るのだと何があっても守るのだと言われた。
自分の手よりも小さな手。
この手が将来この国を支える王となるだなんて当時の自分には信じられなかった。
[××と王様。]
『王はどこだ、王は!』
『にひー、此処だよ』
汗だくになりながら場内を走り名を叫んでいると中庭の噴水の前で付き人と日向ぼっこをしている王の姿が目にうつる。
ひらひらと呑気に手を振ってみせる王の横では付き人がおろおろとした表情で此方を見ていた。
『お前は…ッ仕事を放り出して何をしてるんだ!』
『きゃーこわーい、タスケテー』
『お、王様…』
付き人に抱きついて離れないと駄々をこねる王の頭を叩き、「行くぞ」と無理矢理付き人からはがし王室へと戻る。
その間も王はヤダだのなんだのととても国民には見せられない態度を続けていたがそんなものなれっこである俺には通用しない。
いくつになっても変わらない。
中身はあの小さな手を持った子供のままだ。
『…仕事が終わったら、お前の好きな菓子をやろうと思ったんだが嫌なら
『やる!』
今までの態度など嘘にも思える俊敏さで王は玉座に腰かけると「仕事は?」と問いかけてくる。
変わらないな、昔から。苦笑しながら言えば「うるさい」と一蹴されさすがに機嫌を損ねられて仕事をしなくなるのは面倒だと察し仕事の内容を口にした。
王は眠そうな顔をしながら適当に相槌を打っているがちゃんと聞いているのだろう。
それがこの国の王だ。
――――歴代の王の中でも最も国民に愛され、即位してからすぐに険悪だった隣国との関係を友好的な関係に修復。
大国に囲まれる小国でありながら国内は特に外国を恐れることなく活気づいており、今の王になってから他国との交流も急激に増えた。
素晴らしい王だと誰もが口にする。
素晴らしい王だと俺も思っている。
きっと誰よりも。
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『あの、』
『…どうした?王なら、まだ』
『あ、違うんです、あの』
王といるときは滅多に話しかけてこない付き人に呼び止められて足を止める。
付き人は少し考え込んでから口を開き喋り始めた。
『最近王様が城を抜け出してて』
『?いつものことだろう』
王が何かと城を抜け出すのは日常茶飯事だった。
しかし付き人は「それが」と神妙な顔つきで話を続ける。
『西の森に、行ってるみたいなんです』
『西の森?
あそこには何もないだろう』
城からは遥か西にある大きな森。
隣国との境に在り森の奥には魔界の王が住んでいるとも言われている。
…そんなところへ何をしに……?
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