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□∝10
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お伽噺は最初から、
最初から始まっていなかった。
なぜならそれに姫は存在せず。
存在するのは、一人の――
(そうであるが故に)
物語は転がる岩の様に、
止まることなく転がり続ける。
結末へと。
「道化師はわらう]
「どーゆーことかなぁ、達海せんせ?」
「…痛いんだけど」
手首を掴まれた達海が小首を傾げ、持田を見る。
その口許にはうっすらと嘲笑じみたものが浮かんでいた。
見たことがないその顔に、持田は目を見開く。
「俺さぁ、達海さんの不良でも受け入れるスタイル買ってたんだけどね」
「せんせい、ね」
やんわりとわらった達海に持田が舌打ちをする。
得体の知れない何かを相手にしているような気がした。
「…最近、杉江くんと一緒にいるよね?」
「杉江だけってわけじゃないけど?」
「――何人と寝たわけ?」
達海は依然【わらった】まま、持田の問いかけを「さぁ?」とはぐらかす。
夏が終わり、新学期に入ったその頃から――急変した達海に、持田は苛々した様子で再び舌打ちをした。
「…俺を、からかってんの」
「………、」
「達海せんせー、授業遅れちゃいますよぅ」
口を開こうとした達海は駆け寄ってきた石神を見、口を閉じる。
駆け寄ってきた石神が持田の手首を掴んでわらった。
「今達海さんと俺が話してるんだけど?」
「しつこい男は嫌われる・ってね」
ぐ、と持田の手首を掴んだ手に力を入れる石神。
納得いかないというような顔で持田が手を放すと、達海は振り返ることなく授業をしに廊下を歩いていく。
「…あんたは、気になんないのか」
「まさか。
ちょーっとは心配してるよ、そこで盗み聞きしている王子様には負けるけど」
にっこりと笑顔を貼り付けたまま石神は持田から手を離す。
罰の悪そうな顔で現れたジーノを見、持田は舌打ちをした。
「盗み聞きなんてヘタレだね」
「…僕はタッツに嫌われたくないからね」
愛する者に幻滅されるなんて、僕には耐えられない。
愛に生き、愛に殺されることも――愛する者から嫌われるよりも辛いことはないとばかりに――受け入れる王子の魂を持つ者は、自嘲じみた笑みを浮かべる。
「これだから王子は」
「ふん、すぐ攻撃的になる魔王よりはマシだね」
睨み合った二人に石神は貼り付けた笑顔を浮かべる。
まるでマニュアル本に載っているかのような模範的である笑顔のまま、石神は口を開いた。
「【くだらない】」
笑顔だけなら――泣いている子供もつられて笑みを浮かべるような――好印象を与える石神は淡々と淡々と言葉を紡ぐ。
銃弾が飛び交う戦場の中心で「今日の晩御飯はなにかな」とあくまで真面目に口にするように、周囲の世界とのズレを気にすることなく、ただ、淡々と。
「生まれ変わる前の記憶が有るから運命?笑えるね、否笑えない。
前世犬だった人がその時の記憶を覚えていて「犬って人間より大変なんだぜ」って真面目に言うくらい【下らない】。
そんなものだ前世なんか。
そんなものなんだよ、君たちとあの人の接点なん」
石神の言葉は続かない。
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