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お伽噺の皮を被ったそれは。
あまりにも突然に唐突に。
本当の顔を露わにする。
「魔女は哀れむ]
「(なんだ、あれ、)」
廊下を走る椿はたった今垣間見た光景を思い出し、ぎゅっと目を閉じる。
覗いた準備室。
そこで見たのは。
「(嘘だ、あんなの、)」
「!きゃっ…―――」
「わ!」
衝撃に椿が尻をつき――目の前で藤澤が同じように尻をついてるのを見て飛び起きる。
「す、すんません!」声をあげた椿が手を差し伸べると藤澤はその手を掴まずに立ち上がった。
「…大丈夫よ」
「す、すんませ、」
大丈夫だから。
白衣をぱんぱんと叩きながら藤澤が廊下に散らばった参考書やら教科書を拾う。
椿も慌てて教科書を拾い、藤澤に手渡した。
「…そういえばあなた、」
「?」
「今日は達海の後ろをついて歩いてないのね」
さっと変わった椿の表情に藤澤は――まるでどうして椿が表情を変えたのかが判っているかのように――ため息を吐き、「そうね」と小さく呟く。
「私はアレとは違うからあなたたちと関わるのは避けているのだけれど…――話をしましょうか、『魔女』として」
かつて『王様』に救われた一人である『魔女』の生まれ変わりは今にも泣きそうな『付き人』の生まれ変わりに呆れたような笑みを浮かべた。
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「…泣くことはないでしょう」
「ぐす、だって、」
ぐずぐずと涙を流す椿に藤澤は何度目になるか解らないため息をつき、椿の前に紅茶の入ったカップを置いた。
「…あ、あざっす…」
「達海の話は耳に入ってるわ。
色々と面倒なことおこしてくれてるみたいね。
表面化はしてないけれど――時間の問題だわ」
情報通である藤澤が面倒くさそうに額へ手を添える。
ぎゅ、とカップを握った椿が唇を噛み締めた。
椿が準備室を覗いた時、達海は男子生徒とキスをしていた。
「…あれは、」
「手を出してるみたいね、生徒に」
「―――!手を出してるだなんて、そんな言い方、」
「あら、他になんて言えばいいのかしら?」
う、と椿が言葉をつまらせる。
「…『あなた』たちは『王様』の何を知っていたのかしら」
藤澤が椿を見る。
椿は問いかけられた質問の意味が解らないとばかりに首をかしげた。
「どうして『王様』は死んだのかしら。
どうして殺されなくてはいけなかった?」
「―――?」
「思い出しなさい。
否…【思い出せない】からこそ【気付きなさい】」
私はあなたたちにあまり【関与しない】のではなく、あまり【関与できない】。
――今回は、特別に赦されているから関与しているのだけれど。
「…『あなた』たちは【もう一度生まれ変われるのならば】と【願った】。
――【願う】だけで【叶う】のならば今頃世界は前世の記憶を持つ人間だらけだわ」
「―――、?」
「【前世の記憶】を持って生まれたいと【願った】のならば…【願った】分、【代償】を差し出す羽目になったはずよ」
手にする分、人は手放さなくてはいけない。
「『王子』は愛を与えられず、
『騎士』は守る為の力を失い、
『魔王』は再び異端の身となり、
『道化師』は世界の色を知らず、
――愛する者を求めるが故に【絶対】に報われない結末を、
【呪い】を背負って生まれた」
「―――……あ、れ?」
「…また喪う前に、行きなさい。
そしてあなたは―――」
何かに気付いた椿に、藤澤は表情を変えることなく言葉を紡ぐ。
藤澤が言い終わるよりも前に椿は科学準備室から飛び出していった。
藤澤は呆れたように笑い、紡ぎかけた『真実』を心の奥に仕舞うと――『真実』を知るからこそ言える言葉を――小さな声で呟いた。
「……なんて…残酷な結末」
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