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昔々、或る処に。
一人の王様がいました。

王様は誰からも慕われ。
国民に慕われる良き王でした。


王様はそんな世界が好きでした。




しかし王様は、国民のために娼婦の様に、権力者に取り入る自分を遠くから見ている時。

ある日ふと気付きました。


誰からも慕われる、というわけではないのだと。
国民は平和をあたかも当たり前かのように平然と生き、終いには友好関係など止めて戦争をすべきだと言う者がいるのだと。





自分が世界を憎んでいるのだと。




自分で死ぬことは赦されず、
王様はただただ自分の宿命を恨み、憎んで、そしてその宿命のにうまれた自分を嘲りました。

それから王様は。




自分が命じれば主を手にかける忠誠心の強い付き人を背後に。
(その忠誠心を身分が低いからこそ抱くであろう嫉妬が勝り、あわよくば剣を背中に突き立てられるように)

正義の、平和の為ならば戦さえもいとわない騎士と対等に。
(その愛国主義が怠惰を持て余すように繕う君主を、あわよくば革命で裏切るように)

愛に生き、愛の為ならば冷酷にもなることができる王子を虜に。
(その愛をいつか裏切って、あわよくば刃を向けられるように)

孤独で異端とされた、狂気に踊る一人の魔王を友に。
(その狂気があわよくば、友である自分を引き裂いて殺してしまうように)











『…死ぬことだけを考えていた『王様』は、そう考えたが故に【死ぬことができなかった】』


それの半身であるモノは『魔女』の生まれ変わりが――生徒が準備室から転落し、病院に搬送されたと聞いてゆっくりと出ていったのを見送った後、小さく呟いた。
ぽつり、ぽつりと。




『……そして『王様』は――本当に、凄い確率で、偶然にも――出逢った』



全ての元凶である、




『本来なら、決してお伽噺の主人公を愛しはしない、主人公とは無縁の≪存在(オレ)≫に』



そう、だからこそ。





『…これはお伽噺じゃないんだ』















(それでは)

今となっては誰も知らぬ、
(だからこそ、)

嘘で塗り固まっていた、
(本当の、)

(しかし誰も思い出すことはない、)



ひとつの真実を、話しましょう。
つらつらと、つらつらと。













『―――王?』



城から王様が消えた。
あの泉には行かない、そう言った王様は嘘を吐いていた。

見抜くことができないわけがない。





『―――何処に、』





城内を探しまわり、大臣である自分に与えられた部屋を覗く。
やっぱりいない。







『――――!』






部屋に置いてあった剣が無いことに気付く。
誰が、あれを。

(走り出す。)
本当は、わかって

―――――解っている?何を?

(泉のある森の奥の奥。)
辿り着いた先に居たのは、









「…ッ !」







(小さく紡がれた名前)
王様の倒れていく姿。

(剣の刃は血よりも赤く)
跳び跳ねる、赤い血。

(目を、見開いた。)
王様が斬られたところを、




王様が【黒いコートで顔を隠した何かに斬られるところ】を、




目の前で【目撃】し、思わず手を伸ばす。
(手は、届かない。)





王様と、目が合う。


言葉にならない叫び声をあげて、黒いコートを着た何かが此方へ逃げてくる。
真っ赤な血に染まった、赤い赤い剣。嗚呼、それは。





(俺のせいで、)




伸ばした手を引っ込め、口を抑えて走り出す。
あいつは、何処に行った、
王様を殺した、あいつは、

(俺のせいで、王様は死んだ、)
(俺が、王を殺した、俺が、)

それを追って棘の道を走る。
(がむしゃらに棘の道を走る。)





王様を、王様は、


獣道とも言える道を走る身体に棘が引っ掛かるがそんなもの気にもならない。
大きな棘が【腕】に刺さり、肉をえぐった。

呻き声をあげて足を止める。



(そして、呪いは成立する。)









『――――お急ぎのようで、』






現れた、一人の存在によって。
【男】は過去から消えることになる。










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