捧げもの
□トロイの林檎は放たれた。
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01「前線地帯混線模様。」
→02「しんかろん」の続編
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(このままでいられると)
(信じていた、)
(どろどろと醜く蠢いている想いを胸の奥底へと沈めながら)
「ボクタチお金なくて困ってるんだよ」
「ちょっと貸してくんねー?」
夕方を過ぎ、まぁまぁ夜に近くなってきた空をちらりと見上げ達海はため息を吐いた。
達海にしては珍しく時間通りに約束の場所に行けると思ったのに――想定外な出来事のせいで――たぶん待ち合わせ時間を回ってしまっているだろう。
絡んできた若者二人はにやにやと笑って此方を見ている。
「おじさん今急いでるから」
「そんなこといわないでさ!」
「ちょ、はなせって」
ああもううざったい。
腕を掴まれ――ビルの裏に連れていかれるのを想定した達海は――掴まれた腕を引いた。
しかしさすが相手は若者というべきか掴んだ手を振り払えずに引きずられるような格好になる。
「ッの、」
拳を振り上げようとした瞬間、達海の腕を掴む手の上に第三者の手がぽん、と乗せられた。
「……あの」
「は?」
「え?」
男の手の上に自分の手を乗せた第三者は――椿と同じ学校の――制服を着ていて、何を考えているのかよく解らない顔をしていた。
「誰だおま……っいってえ!」
「嫌がってると思います」
ぎりぎりと掴まれた手に加わった力に男が顔を歪ませる。
ぱっと離れた手に達海が身を退くと男子生徒は男から手を離した。
「ッ喧嘩売ってんのかてめぇ!」
殴りかかってきた男の拳を男子生徒はひょいっと避け、流れるような動きで男の足を払った。
どてん!という大きな音が響き、男が尻をつく。
「(…この動き、もしかして)」
「このやろう!」
「…あ、あぶなっ」
達海が声をあげた時には時すでに遅く――男子生徒に背負い投げをされた男は地面に沈んでいた。
やっぱり、と達海が呟く。
「柔道やってんの?」
「あ……はい」
他にも色々やってますけど。
沈んだ男を引きずって逃げていく男を見ながら男子生徒が頷く。
「へぇ…ま、とりあえずあんがとね。
これやる」
達海はにひっと笑みを浮かべると男子生徒の手にポケットから取り出したあめ玉を押し付けた。
「そんじゃ俺用事あるから!」
あんがとな!そう笑みを浮かべて言うと達海は早足で行ってしまった。
ぼーっとその後ろ姿を見ていた男子生徒は「なんで窪田がおんねん」という言葉をかけられゆっくり振り返る。
「ん?ほんまや、なにしとんねん窪田?」
「窪田どしたぁ?迷子か?」
「んなわけあるかい。
部活の帰りやろ?」
「あ…………はい」
特有の1テンポ遅れた返事に片山は「(そやった、窪田と会話なんか出来んの親戚のシムさんくらいやん)」と上司を頭に思い浮かべひきつった笑みを浮かべる。
「今誰といたん?」と畑が窪田の見ていた方向を見―――「大変やカタ!」と片山の背中をどついた。
「痛ぁッ!なにすんねん畑」
「あれ達海さんやないか!?」
「……は?」
片山が畑の指が差す方向を見るとそこには確かに――会社の取引先の――達海がいた。
隣には長身の男がいて、見たことがないことから会社関連の人間ではないことに気付く。
「ほんまや!おーい、達海…ぶばっ!?」
「兄やんたちよぉ、声がでけーんだよ、声が」
片山が口を塞がれ――片山の口を塞いだ男は手を離すとにやりと口許を緩めた。
ちなみにその後ろには長身の若い男とスキンヘッドの男が立っていて――「なんやおまえら!?」と畑が声をあげる。
「まぁ…なんだ?」
サングラスをはずした男がにやにやとうさんくさい笑みを浮かべる。
「冷やかしついでの尾行ってやつだ。」
なぁ、そこの兄やんたちよ?
男が物陰に向かって話しかけると――「ひぃっ!」「バッ、なに声出してんだよ!」という声があがり――二人の高校生が姿を現した。
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