□その男、情報屋につき。
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江戸の町を飾る華は花火と喧嘩


その町は最も人が自由に生き、
どの城下町よりも活気づいた町







隣の家の夕飯からお上の内緒話、此処とは遠い異国の噺まで知りたくば江戸の或る甘味屋へ行ってみな





キセル片手に着崩した着物、
艶やかな紅の羽織を肩にひっかけ、
あげた前髪を玉かんざしでとめている男がいたら、





お望み通りの情報をそれ相応の値で売ってくれるだろうよ




































「達海さん昼間っからゴロゴロしないでよ!」



お天道様が空の真ん中に位置する昼時。
今日も江戸の或る甘味屋から看板娘、有里の怒声が響く。

それは日常茶飯事のようなもので周辺で商売する主人たちやおかみは「ああ、今日も有里ちゃんは元気だ」と微笑んで甘味屋に目を向けた。


さて、そんな甘味屋の主人後藤は二階から響いてきた怒声に今日もやれやれと肩をすくめた。
盆にのせた団子と茶に目を落としため息を吐く。





……全く今日もアイツは




トントンと二階へ続く階段を上がり、今や有里が怒っているアイツ専用の部屋となっている場所へ歩を進めた。














「有里ちゃん、大丈夫?」




「あ、後藤さん!
もう達海さんったら昼間なのにゴロゴロて」


部屋の障子を開け放ち、眉を吊り上げ仁王立ちをしている有里が部屋の窓を開けその縁に肘をつきキセルをふかす男を指差す。




着崩された着物に艶やかな紅の羽織、
そしてあげた前髪をとめる玉かんざし。

風変わりな格好に身を包む男は「あ」と声をあげると後藤にひらひらと手を振った。








「ごとー、団子と茶ありがと」





「ちょっと達海さ

「いいじゃないの。
ちゃんとお代は払ってんだからさ」




後藤から盆を受け取り、男…達海は懐から出した金を有里の手の中に落とす。

有里は「毎日ゴロゴロしてるのにどうしてお代が払えるのよ」とブツブツ呟き、客に呼ばれて部屋から出て行った。






「お前、有里ちゃんに何で稼いでいるのか言ってないのか?」

「秘密って言ってる」



にひひ、と達海は独特な笑みを浮かべてから団子を口に運ぶ。
うまい、と目を細めて口許を緩める。









「知らない方がいいことだってあんだよ、この世には」







茶を啜り達海が苦い、と顔をしかめた。

後藤は何かを言おうと口を開いたが結局は何も言わずに「そうか」と頷いただけだった。














「達海さーん、なんか達海さんに用があるって人が」


下の階から有里が声を張り上げてくる。
「通してー」と達海が応える前にドタドタと階段を駆け上がってくる音。

途中「邪魔やボケェ」「なんやアホンダラ」と何やら争う声が聞こえてきた。





「めんどーだなぁ…」




まるで来るのがわかっていたような顔をして
達海が団子の串を口にくわたまま唇を尖らせる。

後藤はあまり騒がしくしないでくれよ、と店の主人らしいことを言い部屋を出ようとした。





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