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誰かが、呼んでいる。いや、泣いている。
大きな大きな扉の前で、泣いている。

小さな手がそびえ立っている扉にふれる。
扉の向こうで声がする。俺を呼ぶ声。



ああ、そっちにいるんだ?


今、開けるよ。













―――――…重い扉を開き、飛び込んできたものは……

























「―――…っ」



ふ、と目を覚ました。
ガタゴトと揺れる列車の中は誰もいない。

進行方向の右側の窓の外は太陽が昇り、左側の窓の外には月が昇っている。
二つの席が向かい合うようにして配置された座席の上で、達海は大きく伸びをして外の景色を眺めた。






本来このセカイには二つの独立した世界が存在した。

月が空を支配する夜…「闇」の世界と太陽が空を支配する朝…「光」の世界。
その二つの世界は数万年前までは別々に存在していた。





―――なんらかの原因によってその二つの世界を保たせていたバランスが崩れるまでは。





二つの世界を仕切る壁みたいなものの中心にある扉がなぜか開き――扉によって本来独立し互いに干渉することのない二つの世界が扉が開かれたことによって――重力で引き合うように無理矢理一つに成ろうとした。

そしてそのせいで光の世界には闇が、闇の世界には光が押し寄せてきた。

二つの世界の安定していたバランスは途端に崩壊し始め――これ以上崩壊すればどちらか一方どころか両方の世界が焼失してしまうことから――光は闇を、闇は光を、自分の世界と正反対の世界を消失させようと衝突を始めた。





――…そうしてこの世界には朝や夜とかの関係なしに場所ごとで夜の世界と光の世界が広がっている。












「…にしても突然呼び出すだなんてどしたんだろ、後藤の奴」






達海は扉が開かれた数千年後に起こった――それまでのそしてそれからの中でも最も激しい光と闇の衝突であった――攻防戦で足を負傷し、使い物にならない己を引きずって田舎(それこそ闇の干渉がまるでない地方)に移り住んだ。


攻防戦の最前線で戦う人間は普通の人間とは違い恐ろしく長命――普通の人間とは違い、長命であることには大きな意味があるのだが――で、こっちに戻ってくるのはざっと千年振りかな・とか達海は思いながら自分を突然呼び出した戦友の顔を思い出す。

数千年前の闇との攻防戦から戦友は――闇と対抗するために作られた――組織の幹部にまで昇格したらしいが、なんせ今もなお――激しさは達海が戦っていた時に比べれば大人しくなった方らしいが――続いている攻防戦の最前線で戦える人間が少ないらしく、組織運営も大変らしい。








「ま、田舎暮らしにも飽きてたからいんだけどね」






手伝いくらいならしてやれるかな、とか達海は都合よく解釈をしてもう一度寝ようと窓から目を放した。



その瞬間、ぐらりと景色が揺らいだ。

座席から身を落としそうになって窓縁を掴む。










「!?な、に…?」







ゆっくりと立ち上がって窓の外を見、進行方向に向かって右とそれから左の窓の外の景色が――先ほどまでは全く別々だったのに――まるで同じことに気付く。

先刻まで別々だった景色が、同一になっていた。














窓の外の景色は全て、












→○


→●

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