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誰かの背中を見るのが嫌いだった。
誰よりも前へ前へ進もうとした。
(消えていく背中を見るのが怖かったから)
ある時足をくじいて止まった瞬間、目の前で多くの背中が消えていくのを見た。

自分の中に有る力の正体に気付いたのはまさにその時だった。



























「じゃ、行ってきます」

「うう、きんちょーする」

「ッス!」




緑川が新星と言った三人の背中が列車の上を走り遠ざかっていく。
石神の横に座りそれを見ていた達海が手を伸ばした。



(小さな星が、闇に掻き消される映像が脳裏の奥で浮かび、消える。)

(三人の内の一人が、消える。)






「…待っ!」


「!!達海さん!」






緑川と石神の声を振り切るように走り出す。
足が痛い。それでも止まらない。



(さあ、はやくえらんで)



また声が聞こえ、消えていく。
えらぶ?なにを?

(もう喪うのは嫌でしょう?)


違う、ただ、俺は、守られて、ただ見ているだけなのは、もう、



もう、







「ッ!!」




列車の天井にあいた穴から車両の中へ飛び込む。


中は黒いフードに身を包んだ人間と村越が衝突しているのが見え、もう一人の男が銃を発砲している。
「なにしてんだアンタ!」と三人の内の一人、吊り目の青年が叫ぶのが聞こえた。

違う、アイツじゃない。

ぐるりとまわりを見回していると探していた人物を視界に捉えた。
黒い髪がふわり、と舞うのが見える。








「――…椿ッ!!」


「え」



どうして名前を?と椿が此方を見、『達海の視たままに』黒いフードを身に纏う大柄な男に殴られて倒れ込む。
大柄な男は口角をあげると椿に銃を向けた。




「ックソ!」




椿が咄嗟に反応し足でその銃を蹴り飛ばすと「達海さん!」と達海を見て声をあげる。

足がぐらつき膝をついた達海が顔をあげた瞬間、剣を振り上げるフードの人間の笑みと達海をかばうようにしてその人間と達海との間に体を挟んだ椿の背中が視界に入る。







誰か、の背中を見るのが嫌いだった。




それは今も変わらない。
あの時ももっと「力」が有れば守れるのに、戦えるのにと祈った。

手に入れた力があまりにも大きすぎたことに気付くのがそれを行使してからだと俺はまた知らないフリをした。




「!」





剣が振り下ろされた瞬間、達海が手を突き出すとまばゆい光が視界いっぱいに広がった。







「…な、なにが……?」







光がなくなると振り下ろされたはずの剣は消え、肩で息をしている達海が「は、」と苦しげな表情で笑う。

どっと汗がふきだし顔を青ざめさせている達海に、状況を理解できずに呆けていた椿が「達海さん!」と名前を呼んで達海と向き合った。





「にひ、久々すぎて、力の加減できなかった、」




達海が小さく呟き、椿の腕の中に倒れ込む。
椿が名前を叫ぶ声と一緒に、閉じた瞼の裏にまた映像が流れ始めた。

意識は現実から、映像へと入り込んでいく。
























赤い、血溜まり。

壊れた金時計。
倒れている光の者達。

その中心で重ねた両手の中に入っている何かを飲む、人影。
唇の端から飲んだ液体が顎へと伝い、落ちる。

赫い目が、此方を見た。
その顔を、俺は知ってる。

そいつは、それは、

















「―――ッ!」


「あ、起きた」




は、は、と肩で息をしていた達海を一人の男が覗き込んだ。
真っ白い天井と鼻につく消毒液のにおいに此処が目を醒ます前に居たところとは違うことに気付く。





「ここは…?」




「―――…達海!!」







ばたん、と――どこかの医務室であろう部屋の――ドアが開け放たれる音が響くと顔を覗き込んでいた男が視界から外れ、かつての戦友の顔が飛び込んできた。

心配そうな顔に思わず笑ってしまった。







「列車で光狩りに遭ったと、村越に、」


「あー、うん、そうだね」






とんだ災難だった、と達海が後藤に笑みを浮かべて言うが後藤の顔は心配そうな顔のままだった。





「椿を助けようとして、力を使ったのか」

「…」





「なんで“太陽”の力を持っていると隠していた…!?」





それは、と呟いた達海に後藤ははぁーと長い溜息を吐くとすぐ傍にあった椅子に座る。
後藤は「なんで」と小さく呟くと両手で自分の顔を覆った。






「どうしてお前にそんな力が…」






光の世界は天に浮かぶ『太陽』が支配する世界。

闇に対抗するために――扉が開かれ光の領分に闇が侵入してきてから――光の人間の中に太陽を中心にして輝く『星』の力を授かる者達が現れ始めた。


そしてそれは闇の人間も同様で闇の者にも力を持つ者が現れ始める。


力を持った両者は当然の様に衝突し、それが数千年前の攻防戦勃発の引き金になった。
両者の力を持つ者には力の差があり、その中で最も強い力を持つ…王様であるのが『太陽』と『月』の力を持った者。

この二つの王が倒れない限り互いの力を持つ者は衝突を繰り返し、王は決して戦いから逃れることはできない。







「お前を呼び戻したのは一種の賭けだった。お前には力なんて無いと、もう二度と線上には戻さなくていいと、確証を得るために、俺は……」




その確証を得られる確率は0に近かった。

しかし達海が自分の力を周りに気付かれないように千年も力を封じていたのなら騙し通せるかもしれないと後藤は思っていた。




「だが、お前は“太陽の力”を使って闇の人間の力を『浄化』させた。
浄化の力は太陽の力を持つ者にしか使えない、王の力だ」




「―――…で、後藤はいつから俺にこの力があったって気付いてたの」






お前のことだから最前線で戦っていた誰よりも一番最初に気付いて気付かないフリをしたんでしょ?

達海がそう言えば後藤は両手を外して達海を見た。







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