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□夢の中で夢を見る
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探してる。
彼女が落としたそれを。
途方もない海に落とした一粒のそれを。
何かが落としたあれを。
ふかい海の底に落とした一つのあれを。
(光が、遠い。)
(嗚呼、底が近い。)
誰かが泣いていた。
何かが呼んでいた。
―――どうしたの?
『大切なものを、落とした』
誰かがそう言い、
何かがそう呟く。
『ああちょうどいい。ねぇ、』
『あれを探してくれるなら』
(嗚呼、海面に手が、届きそうだ。)
£
「……うぷ、酔った」
「こんなとこで吐くな!」
うぇえーと船の揺れに耐えられなくなった青年を甲板から追い出し、一人の男が舌打ちをする。
「…いやー気味が悪いね」
ワイン瓶片手に現れた男が眉間に皺を寄せて水平線を睨む男に話しかけた。
ちょうど男も同じことを思っていたのか――眉間に皺を寄せたまま――不気味なくらい静かな波の海から空へと目を移す。
「……太陽を囲むように虹が出てやがる」
「滅多に見れないモンが見れるのは幸福の象徴らしいけど」
それを三日続けて見れたんじゃちょっと怪しいなァ。
瓶を手で遊ばせながら男は言い、他の仲間に呼ばれて去っていった。
「海が、おかしい」
何がおこってる?
クルーのベテランたちの誰もがその疑問を抱いているようで――瓶を持っていた男や、それ以外の男たちも海を見ては水平線を睨む男と同じように眉間に皺を寄せている。
「堺さん、アレなんスかね?」
船酔いになんとか堪えたらしい新人の一人が海の向こうを指差して叫ぶ。
堺と呼ばれた――今まで水平線を睨んでいた男はその方向へと目をやり、目を見開いた。
「人間…!?」
木材にしがみつくようにして浮いている人間が波の間から見える。
気を失っているらしく、しがみついているというより腕がうまい具合に引っ掛かっている、と表した方がいいのかもしれない。
「チッ…!世良、引き上げる準備しとけッ」
「え、堺さ」
世良と呼ばれた新人が堺を見た頃には大きな水しぶきが上がっていて――堺は海へと飛び込んでいた。
「(…波が静かだ)」
気味が悪いな、
まるで波がたっていない海を泳ぎながら堺は先程見た人間へと近づいていく。
「…オイ、」
「…………っ、」
木材に腕を引っ掛けていた人間を抱き寄せて体を揺さぶる。
堺に抱き寄せられた男は体温が著しく下がっているものの、微かに呼吸をしていて堺はほっと息を吐いた。
それから男が少し自分と違うことに気付き――眉を潜める。
「………あかい、髪」
助けた男の髪は、海に咲いたあかい花のようにまっかな色をしていた。
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