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□喰らい喰らわれ底の底
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落とされたなみだ。
落っことした心臓。
探すのはにんぎょ。
探し求めるは亡者。

それらを手に入れんとするは愚かにも夢をみる海賊たち。



さぁ鍵をその手に。
見つけるのは、誰?















「珍しいね、あんたが来るなんて」

「――使いに出した部下がこれ以上使い物にならなくなるのは避けたいからな」




船長室に入ってきた海軍の幹部――平泉という男が持田を瞳にうつす。
海図とコンパスをいじっていた持田はそこから目を外し、平泉を見た。





「それは大変だね。
これからは『海は全て国王のものだと戯れ言を並べる狗では弄ばない』ようクルーに伝えとくよ」



明らかな挑発に平泉の後ろに立っていた部下は「貴様!」と声をあげるが平泉がそれを手で制する。






「つまんないなぁ、そいつが俺に刀を向けたらそれでぶち抜こうと思ってたのに」




三雲、さげて。

いつの間にか平泉の部下の後ろに立ち、背中へと銃を向けていた三雲が持田に銃を下げるよう目で合図されそれを仕舞った。






「そんで、何のよう?」

「十年前に確かに処刑された海賊王をお前が飼っていると耳に入れてな」





コンパスをいじっていた持田の手が止まる。
平泉は目を細めて「やはりそうか」と呟いた。






「海で死んだ者が水死体として浜辺に打ち上げられるのは珍しくない」




たまに心臓をくりぬかれた水死体と――その傍らにくりぬかれた心臓が打ち上げられていることもあるがな。

少し間を置いてから平泉が口を開く。





「…ここからは夢のような噺だが軍が回収した水死体の中で『生きていた』ものがあった」





それは心臓をくりぬかれているというのに息をし、そして三日間熱に苦しんだ後、『死んだ』。





「それは心臓を『沈んでいく海の底で持っていかれた』と言っていたらしい。
しかし心臓はそれの近くに打ち上げられていたし、――それが原因なのか息を引き取った」




若し、『海の底』にいる『何か』が『心臓』を探しているのなら、≪ハート≫は存在すると思わないか?

そう言った平泉を持田は数秒間見つめ、口許を緩めると笑い声をあげた。





「ぎゃはははは、平泉さんってロマンチストだったんだね。
大体『国王一筋、現実主義者』のあんたらが≪ハート≫なんて曖昧なモン追ってたわけ?」





「国王が欲しがっている」







持田の笑い声が止まる。






「若しお前が『心臓』をくりぬかれて尚『生きている』水死体を『所有』しているのなら国王はそれを



「国王ってあの人を処刑した奴デショ?」






小刀が降り下ろされ机に広げられた海図に突き刺さる。
言葉を止めた平泉に持田は口許を緩め、海図の上にあったトランプのカードを一枚手に取った。






「俺が一番近いのは確かだよ。
≪ハート≫に一番近い≪ジョーカー≫を手札に持つ≪スペード≫だからね?」





それから平泉に小刀で真っ二つに刺したダイヤのカードを放る。
平泉はそれを指で挟むと口許を緩めた。







「…≪ダイヤ≫は≪ジョーカー≫を所望している」

「ぎゃははは、んな簡単に切り札を渡すかよ」



つーか絶対あげないし。







「≪ハート≫は俺が手にいれるよ、絶対に」






これ以上の話は必要ないとばかりに持田は立ち上がると平泉に出ていくよう目配せをした。





「国王が≪ダイヤ≫、おまえが≪スペード≫というなら≪クラブ≫はなんだ?」






くしゃくしゃに丸めてあるトランプのカードを横目に平泉が問いかける。
持田は一気に不機嫌そうな顔をすると口許を歪めて笑った。









「―――とるにたらない小さな海賊だよ」










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