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□『もう、向こうに行くな』
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*流血表現有
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ふたりはめぐりあう。

ゆめのなかではなく、
たしかにげんじつで。
ふたりはめぐりあった。















「――達海さ、ん」


「…あ、」





堺の手が伸び、達海の頬にふれようとする。
達海が身を退いたのを見、堺は手を引っ込めると達海の両手を拘束する縄を切った。





「ねぇ、あん


「いたぞ!」




「チッ、走るぞ、」





駆け寄ってくる男たちから逃げるために達海の腕を掴むと立ち上がらせ、堺は駆け出そうとした。






「待っ、俺、走れない…っ」

「は?」




村越を助けに行った時は駆けていた足を堺が見ると、右の足首に刀で健を切られた一直線の痕が何本も何本もあった。

これでは歩くのさえ億劫だろう。






「――――!」

「俺がいると、追い付かれる、」




いいよ、置いてって。

当たり前のように言った達海に堺は舌打ちをすると手を離し――その体を肩に担いだ。







「!?おい、」

「うるせぇ黙ってろ」



達海を担いだまま堺が駆け出す。
―――その胸に歪な違和感と嫌な予感を抱えたまま。




















「―――ッ!」





達海が何者かに連れ去られてから突然消えた持田の居場所を、ようやく掴んだ堀はむせかえるような血のにおいに顔を歪めた。
街の路地裏の奥にある、ひとつの闇市場へ続く入り口からはただ血のにおいしかしない。

闇市場のある地下に続く階段には赤い血がまるで絨毯のようにひかれ、入り口の番人は首から上が無かった。
その足元にはまるで置物のように顔が転がっている。






「…酷い血のにおいっスね」

「ああ、この街も当分は来れなくなるな」





不便になるな、と堀の横で城西が――目の前の状況に動揺することなく――ため息を吐いた。
階段を降りていくとマーケットの中はとても気分の良い景色ではなく堀が後ずさりをし、さすがの城西でさえ眉間に皺を寄せた。








「…達海さんは何処?」




十数人はいたであろうその場所は一人の男しか生きておらず、その男は手に肩から切れた腕を持ちながら足許の人間を踏みつけている。
男はまるで無傷であり、しかしその服は血に濡れ――男がこの状況を作り出したのが一目でわかった。







「腕一本で済んでんだから…はやく答えろ」


「……持田」





ひどくゆっくりとした動作で持田が城西と堀の方を見る。
その目は堀にはひどくつめたいものに見え、城西には動揺した自分を抑え込んでいるものに見えた。

どちらにしても、持田は前に達海が船を逃げ出した時と同じ目をしていた。







「それはもう死んでいる」

「―――、」




城西が持田の踏みつける片腕の死体を見て言えば、持田は口許を歪め――闇市場で売られるモノたちの入る檻に寄りかかった。
中にいるモノは皆、生きてはいない。

持田の手から無造作に放られた腕が地に落ちてべしゃり、と音をたてた。





「何処に消えたのかは今捜索している」

「…で、他には」





持田が喋るたびに威圧感が増し、空気は重くなっていく。
普段は浮かべている威圧的な笑みは影を潜め、牙剥き出しの百獣の王を丸腰で相手にしているようだった。







「村越等の船が今此処の港に」

「――――それで?」

「三雲を筆頭に襲撃しにいかせたが?」



「ふん、ご機嫌取りは一級品だね、城さんは」





歪んだ笑みを浮かべた持田が自分の右目を覆う眼帯にふれる。
それから銃を手に取ると城西に銃口を向けた。





「――達海さんは何処にも逃げられないよ、ましてやあの船になんか絶対に行かない。
…だけど、小さな虫もそろそろ目障りなんだよね」



「……」




「堺とかいうのは殺すな、俺が達海さんの前で殺すから。
それこそ最高の舞台を演出して、ね」





はやく行きなよ。

銃口を城西から外し、その後ろで生き残っていた男を撃ち抜いてから持田が笑う。
城西と堀は顔を見合わせると会場から出ていった。





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