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□きみはあの時あの蒼すぎた空を見たか?
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それでは、帆をはろう。
深海の底眠る宝を求めて。
世界を変える切り札を引け。

時は巻き戻る。


一人の若き海賊王の誕生により時代が変動した少し後。
一人の若き海賊王の処刑により変動した時代より少し前。


一人の海賊王が大海原を支配し自由に海を駆けた最期まで。



時を還そう。









死ぬのかな、

なにも解らずに誘拐されて閉じ込められた薄暗い部屋の中、一人の少年はふと思う。
部屋は不規則に揺れていて、磯のにおいや鴎の声にここが船の一室だということを察した。



「……死ぬのかな、ぼく」




父親は地位を確立させるのに忙しく、母親は生まれた時に死んでしまった。
大きな城内が寂しく、城下町に出掛けたのがいけなかった。

賊の男たちに捕まり、誘拐されてしまった。




「………だれか」




たすけて。













「――じゃ、いこっか」




一人の男がにひと特有の笑みを浮かべたのを合図に海を浮かんでいた船へ男たちが乗り込む。
突然の出来事に――甲板にいた船員は驚き、緊急事態を船長に伝えようとしたが大柄な男に殴られ気を失った。





「村越、強くなったねぇ」

「ッあんたは、海賊王になったんだからもう少し」



まわりを見ろ、

そう言おうとした村越は海賊王――達海が後ろから殴りかかってきた男の足を払い、一発で気絶させたのを見、口を閉じる。




「なに?」

「…なんでもねぇ」





時代は若き海賊王が大海原を支配する時代。

この海賊王のおかげで大海原や海に近い村の治安は奇跡的に良くなり、殺戮をしようとするものなら海賊王直々に挨拶をしにくるということもあってかそういう事件も激減した。

海賊の黄金期初期にして、それ以降の時代を含めても最も海とその近隣の村や国が安定した時代であった。





「よぉ、船長さん」

「!おま、」



「一国の王子様を誘拐して俺の海に逃げて来たんだって?」



後ろから斬りかかってきた男の剣を達海は自分の剣で受け止め――相手の刃を折ると再び船長室の椅子に座る男に微笑む。
男が動けないのは――達海の威圧感を直で受けてしまったからで――蛇ににらまれた蛙と化してしまったからだ。





「この剣切れ味抜群だなぁ。
さすが成さん愛用の剣」



達海はその剣の切っ先を男に向けると笑みを消す。





「王子様、どこ?」





潔く居場所を教えた男に達海は再び微笑むとその頭に足の踵を振り落として気絶させ、船長室から出ていく。
船はすでに静かになりかけていて――戦いの終わりを告げていた。









「よぉ」



「―――!」


薄暗い部屋の扉が開き、中に入ってきた男に少年が警戒心がこもった目を向ける。
「大丈夫大丈夫、」と男――達海は笑みを浮かべると少年を拘束する縄をほどいた。



「貴方は…、あの賊の、」

「仲間じゃないよ。
でも海賊。海賊のオーサマ」




ほら、立てよ。

まだ自分を警戒している少年に達海は笑みを浮かべたまま手を差し出した。
少年は少し躊躇いながらも達海の手を取ると立ち上がる。





「おまえ名前は?」

「名前を訊く前に自分から名乗るのが礼儀だよ」


「これは失礼。
俺は海賊の達海。」

「ジーノ」




「ジーノ、いい名前だね」



にこりと笑った達海にジーノという少年は顔を赤くすると――そっぽを向いた。
甲板に出ると太陽の眩しさに目を瞑る。





「んじゃ、一番近い町に送るか」

「え、ぼくを誘拐するんじゃ」

「え?なんで」





「ぼくを誘拐した奴らからぼくをさらって、身代金とか要求するんじゃないのかい?」




「えー……」





俺が人さらいするように見える?

首を傾げて問いかけてきた達海にジーノは少し考え込んでから首を横に振った。
達海はにひひと笑みを浮かべると何か言おうと口を開き―――「達海!」という声がそれを中断させた。




「げ、後藤」

「おまえはまた勝手に部下連れて乗り込んで…ッ、大ケガしたらどうするんだ!」



甲板にいた男…後藤が達海へと駆け寄り、達海は後ろへ身を退くと甲板に溜まった水で足を滑らせた。





「わ!」

「!!達っ…」




ばしゃん!という音と共に水しぶきが上がる。
「あーあ、風邪ひくぞー」と笑い声をあげる達海の仲間と一緒にジーノが海を見下ろすと、強烈な赤色が目に飛び込んできた。





「!」




青い世界に突然現れた赤色にジーノは息をするのも忘れ、ただただ魅入っていた。

(なんて、きれいな。)







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