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□追憶のなか怪盗は踊る。[:K]
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…隣に座ってもいいか?ええ、いいですよ。ちょうど私も人を待っている身で退屈してたのでね。


人を探している?


…へぇ、相手はなんという名で?
ああ、いや、もしかしたら私でもお手伝いできるかもしれないと思いましてね。




―――怪盗、ですか?



ああ、今世間を賑わす怪盗でしたら知ってるかもしれません。
そうですね、時間もあることですしここは一つ「私の知ってる話」を聞きませんか。


怪盗と一人の、男の出会いの話。
あれは確か……











(―――――時は遡る)













「開かずの金庫?」

「あ、その顔信じてないね」



とあるバーに隣り合わせで座っていた二人の男のうちの一人が眉間に皺を寄せる。
話を持ち出した男はにやりと笑うと一枚の写真を取り出した。




「英国にある有名な銀行のとある金庫は業界で難攻不落って言われてんだよね」



「――難攻不落?」

「その銀行にある金庫は絶対に壊せないし、開けられない。
唯一開けられんのは『鍵』って言われてるお宝だけ」



写真には縦長の箱が写され、男に言わせるとそこにその金庫を開ける鍵が入っているという。
男が勿体ぶった手つきでそれを仕舞う。




「てことでさ、成さん」

「断る。」

「…俺まだ何も言ってないじゃん」




成田という男は「俺の専門は盗みじゃなく殺しだ」ともう一人の男に言い聞かせるよう言い、立ち上がろうとした。
――しかし男に腕を掴まれ、退路を絶たれる。



「この『鍵』の一つを持ってるのはね、裏世界の組織なの」

「――だからなんだ」

「その組織がニホンの裏世界で相当強いって言われてる男を雇ったんだって」

「……日本?」



「そ。そいつめっちゃくちゃ強いらしいよ。
噂では某国の組織一人で潰したとも言われてる」



成田の眸が揺らぎ――殺しをする人間が持つ色を宿した。
かかった、と男はうっすらと笑みを浮かべる。





「―――いつだ」

「ん?」



「出発はいつだ」


男―――怪盗はにひひーと笑みを浮かべると口を開いた。
その瞳にまるで子供のような無邪気な色を宿して。


「それはね予告状に―――――」

























「……予告状、ですかい?」

「嗚呼、Mr.Tと名乗る男から昨晩一枚の予告状とかいうのが送られて来た」




池を泳ぐ鯉に餌をあげていた男がゆっくりと振り返る。
着物に袴を穿いた姿はスーツを身に纏う者しかいない空間には酷く浮いていた。




「なんですかい、そのMr.Tというのは―――?」

「…世界で有名な怪盗だ」




その空間に現れた一人の男が微笑む。
「怪盗?」男が問いかけると現れた男はゆっくりと頷いた。




「狙っている物は必ず守ってほしいがその怪盗は殺さなくていい」

「…――腕の一本や二本足りなくなるかもしれないが」



「足にしてくれ」




微笑んだままの男は不気味なくらいに優しい笑みを浮かべていた。

そもそもこの組織にこの男は所属していない。
『鍵』を売ってきたのがこの男だっただけ、つまり男は組織の商売相手ということになる。
それ以来男はこの組織に出入りするようになり――頭も男を信頼してか、男の色々な話に乗っていた。

今回は予告状を受けた頭が男に相談したのだろう、と袴姿の男は思う。




「足、ですかい」

「嗚呼。足でいい」




ぱしゃり。
笑みを浮かべる男の後ろにある池で一匹の鯉が跳ねた。
袴姿の男は鯉が跳ねるのを見、口を開く。




「…それでその予告状ってのは――――」




















「はぁ?予告状?」

「嗚呼。“次の満月の夜、貴殿の持つ開かずの扉を開く鍵を頂戴に参上する。―――Mr.Tより愛を込めて”といった内容だ」



仮眠室で寝っ転がっていた一人の刑事が笑い声をあげる。
「怪盗ぉ!?シロさん働きすぎて頭沸いたんじゃねぇの!?」だとかとても上司に使うような言葉ではないものを並べて笑う部下に城西はため息をついた。




「お前な…確かにお前の父親は警視庁のお偉いさんだ。
だけどな、あまり好き勝手やってると親父さんに

「迷惑かかればいーよ。
だって俺がこの職に就いたのもあの面を汚してやるためだもん」



ひーひーと笑っている男は――城西から予告状のコピーを受け取ると口許を緩めた。




「つーか、イマドキ怪盗なんてやってる奴いるんだねぇ」

「…世界では有名な怪盗だ。
年齢国籍共に不詳。
変装をしているから顔も特定できていない」



セキュリティが物言う時代に突入してから、突然現れたのは己を「Mr.T」と名乗る一人の怪盗。
それこそ最初は世間も彼を目立ちたがりのコソ泥と言っていたが――そのコソ泥が世界でも厳重な警備で有名な美術館や銀行から金銀財宝を奪っていくと「怪盗」と認めざる終えなくなった。




「ふぅん、で今回は……ってこの予告状来たとこって裏世界で有名なとこじゃん」



京都にある高層ビルの最上階に住む大富豪。
表向きはいくつもの企業を立ち上げたりしているが裏ではその手の組織の頭だという。

警察に出番はなさそうだ。





「俺たちに出番はないでしょ」

「まぁ…そうなるが一応警備をしてほしいと表向きで願いが出されてるからな」

「表向き、ね」




男―――持田は「ふぁ」と大きなあくびをひとつすると寝返りをうった。






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