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+(後日:日本)
「おい、持田、おまえ、何を」
「明日から休みまーす。
詳しく言うとヨーロッパ観光してきます」
上司、城西に持田は笑みを浮かべるとそくささとその空間から出ていく。
その手にでかでかと「ヨーロッパの旅」という文字が踊る雑誌を持ちながら。
怪盗、怪盗ねぇ……。
どうやら怪盗がこの前盗んだのは開かない金庫の「鍵」のひとつらしい。
もうひとつはヨーロッパのとある都にあるだとか。
ほとんどが「機密情報」である情報を噛み締めながら持田は喉の奥で笑う。
自分の親の立場に感謝したのはこれが初めてかもしれない。
「…通行人Aで終わるのは屈辱的だからね」
笑みを浮かべながら、今はもう異国にいるであろう怪盗を睨むように空を見上げた。
+(同刻:日本/××)
「ヴェネチア?」
そうだ、と影の中に融け込んでいる男が頷く。
「怪盗は、そこにいる」
鍵を盗まれた頭はどうやら怪盗に仕返しをする為、そこへと組員を送り込んだらしい。
仕返しと言っているが本音はこの男に二つの鍵を揃えると財宝が手に入ると言われたからで、たぶん怪盗がもうひとつの鍵を盗み出したところを横取りしようと考えているのだろう。
「…あんた、何を企んでる」
「?」
「無償でべらべらと鍵について話しているし、鍵を売り付けてからずっと此処に出入りしている」
なるほど、疑われているのか。
男は何故か愉快そうに言うと「企みか」と小さく呟く。
「…あいつの、」
「?」
「あいつの歪んだ顔が見たいだけかな、今は」
ゆっくりと微笑んでみせた男の表情がまるで読み取れず、緑川は思わず身構えた。
狂気に近いなにかを感じる。
「さて、それより」
君も行くんだろう?
まるで自分はこのドラマの役者ではなく観客であるかのように男は展開を促す言葉を口にした。
+(犯行から一週間後:イタリア)
「どーも、また会うなんて世界ってせまいっスね!」
「…なんで予告状も送りつけてないのに俺の居場所がわかったんだよ」
水の都、そう呼ばれる都市の迷路にも思える路地裏を歩いていた怪盗は自分の前に現れた、一人の男に怪盗はひきつった笑みを浮かべる。
男はそんな怪盗の顔を見れたことに満足したのかにやりと口許を緩めた。
「まさか今度の舞台が日本じゃないとはねー、なに盗むの?」
「おまえの管轄じゃないからって教えるわけねーだろ」
クソ、この格好で歩き回るんじゃなかった。
自分の手首を拘束しようとした手錠を通りすがりの男の腕を身代わりにして怪盗が舌打ちをする。
男、モチダはあっさりと手錠を手から離すと新たに取り出したそれをくるくると回しながら歩き続ける怪盗の後を追う。
「…どこまでついてくんの」
「いやいや、今回はあんたを捕まえにきたんじゃないよ」
宣戦布告。
ピタ、と怪盗の足が止まり自分を見て笑うモチダの顔を見た。
「俺、持田ってーの」
「持田、ね」
「今」はまだ舞台の通行人Aにすぎないエキストラは主役である怪盗にわらう。
ただ、わらうわらう。
「あんたを逮捕する「主役」の名前くらい覚えといてね」
そう言い放った一人の男が数年後、怪盗を追う専従捜査員となり世界を舞台に怪盗と渡り合うのも、怪盗に心を奪われるのもまだ未来の話。
一先ず、エキストラは今回のドラマに影響を与えることなく舞台から身を退いた。
+(現在:?/×××)
…そう、その男こそ現在有名なMr.Tの専従捜査員ですよ。
彼があの時舞台にいただなんて私もつい最近知りました。
ほら、エキストラって自分が有名にならない限りスポットライトがあたらないでしょう?
…まぁ彼が舞台に再び現れるのはこの話ではないんですけどね。
え、とりあえず話の続きをしてほしい?
そうですか、それでは続きを話すとしましょうか。
あまり時間もないのでね…あ、いや此方の話ですよ。
さて、ヴェネチアに降り立った怪盗は…―――――
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