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□すれ違いベクトル。
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宴会場で化学実験をしてみた。の続き。
というよりこれの少し前のお話。
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まぁ、予想はしていた。
その時飲み会に出席していた城西はきりきりと痛む胃を抑えながら繰り広げられる光景から目を反らした。
飲み会にはオールスター戦に参加した選手とその他監督やコーチ陣を含めた関係者の飲み会で、結構豪華な顔ぶれが揃っている。
自チームの飲み会を思い返し――主に絶対王政でしかない飲み会よりは――断然いい飲み会になるだろう、城西はそう思っていた。
否、そう思っていたかった。
関係者も参加する飲み会、どこのチームも今日はオフ、そういうのを含めて『彼』が現れるのは予想の範疇だった。
だから城西は予想はしていた。
―――――しかし、
「ぎゃははははは、」
「持田うざい」
こうなるとは誰が予想できただろうか。
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「たつみさん、なんでこっち来ないの!
ほらとなり!」
酒瓶片手に明らか出来上がっている持田が、自分から遥か離れたところでつまみを口に運んでいた達海に声をかける。
持田のとなりにいたはずの城西は蹴っ飛ばされて…ああ、かわいそうに。と誰もが思うが口にはせず、なかには見ていないふりをしたものもいた。
達海の隣でかちこちになりながら酒を飲んでいた佐倉は――さっきから完全に持田をシカトしている――達海の名前を呼ぶ。
「あの、た、タッツミー」
「なに、サックラー」
「持田選手、呼んでますけど」
「そぉ?俺には聞こえない」
「はっはっは、あんまりシカトするとかわいそうだぞ?」
「…今超面倒くさそうじゃん」
持田に近寄らず、右に古内、左に佐倉、前に平泉という比較的安全地帯に身を置く達海は顔をしかめる。
そもそもこれはオールスターの飲み会であって――持田は参加していないし知らないはずなのに――持田がいるのも不思議な話だが、誰もが(持田による達海への猛アプローチを知っているということもあって)特に疑問を抱かなかった。
「つーかさ、ダンディもどーいう教育してんの」
「…おまえこそ、そろそろ面倒な男に好かれないよう学習したらどうだ」
たつみさぁーん、ねぇきいてんの、たつみさんってば!
持田の声を背景に達海は平泉を皮肉ろうとしたが――平泉が一枚上手だったのか――さらりと返され、舌打ちをする。
つかなんであいつあんなべろんべろんなの。
「…それに、嫉妬にまみれた持田に他チームの選手を殴られても困るからな」
うわ、城西どんまい。
そう思った達海だがその同情心は次に飛び出した平泉の言葉で皆無と化す。
「おまえに甘えるだけならいいかと強い酒を飲ませておいた」
こ の や ろ う!
くすりと笑った平泉に殺意さえ芽生え始めた達海だったが――「達海さん!」という声がそれを消した。
「達海さん、達海さんは俺の方がいいっスよね!」
「カントク、カントクは俺に決まってますよね!」
「はぁ…?」
完全に言葉をハモらせた八谷と夏木が達海の両脇に入り込む。
二人の顔がタコのように赤いことから相当酔っているのだろう。
なにそれ、達海が問いかけるとどうやら二人の始めた今日のオールスターの話が飛躍し続け――何故か「達海が注目している選手」という話にもつれこんだらしい。
「「俺っスよね!?」」
「え、ちょ
「ちょっと聞き捨てならないなぁ」
あれほどまでに騒音並の達海コールをしていた持田が静かになったのを達海が気付くよりも先に――達海の後ろに仁王立ちしていた持田が笑う。
ああ、移動してたから静かだったのね。
達海が助けを求めようと前を見れば平泉はすでに城西らのテーブルに移動し、酒を飲んでいる。
まじ覚えてろよ、ダンディー!
「達海さんが注目してんのは俺に決まってるよねぇ?」
退けよ。
その場の気温を零下にまで急降下させそうな低い声に八谷と夏木は「ひぃっ」と声をあげ、達海に抱きつく。
「ちょ、おまえら、重っ…」
「なに達海さんにさわってんだよ、
………俺だってさわりたい」
公然セクハラ!
達海がそう叫ぶが持田が後ろから抱きついてきたせいで「ぐぇっ」というような押し潰された声をあげた。
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