KING OF THE MOON

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真っ暗な真っ暗な闇の中。

嗚呼、今日も泣いている。
最初はまるで興味などなかった。
けれどあまりにも泣いているから。
声をかけてやろうとして自嘲した。
そうだ、声をかける口など自分には無かったと。
そもそもこの意志さえも自分だと認識できないのだと。

嗚呼、今日も、泣いている。























「うー、暇…」



後藤に連れられ「本部」とかいうところに来てからはや一週間。
此処に居る人間も大体顔は合わせたし、「本部」であるこの建物内もある程度探索し尽くした。


「本部」は攻防戦の最前線である闇と光の領分の境界線からそう遠くない場所に在る。


光を支える選ばれた者がいるところだからそんな闇の領分に近くにいて、襲撃でもされて本部が壊滅したらそれこそまずいんじゃないかと思ったが、後藤曰く数千年に一人の天才、緑川が今在る場所と本当に組織の建っている場所との空間を繋ぎ結界を張っているから心配はいらないらしい。

緑川といったら攻防戦でまだ戦っている時耳にしたな、と達海は思いその縁で緑川と話し結界について聞いたがさっぱりだった。
次元を繋いだり、切り離したり、それができるのは希な天才で、その天才に言わせると陣地に結界を破って敵が侵入してきたら此処の空間と本来本部が立っている空間との道を切り離してしまえば問題ないらしい。(達海自身その話を理解できたかといったらまるで理解できなかったわけだが)






「あ。」






ぺたぺたと歩いていた廊下の隅に黒い小さなもやを見つける。

誰か呼んでこないとなーと思っていると「ワン!」と犬の吠える声が聞こえ、すぐそばを犬が駆け抜けていくのが見えた。
ドーベルマンのような、黒い塊がそのもやをパクリと食らってしまう。






「え、それ食って平気なの、お前」






数千年に一人の天才緑川が張った結界だが、此処最近闇が建物のそこらに現れる(というより滲み出てくる)という。
この小さなもやは大して光の領分に悪影響を与えないのだがそのまま放置しておくと肥大して結界で隠している建物の場所を闇側の人間に気付かれる原因となる。

であるが故に此処に居る者は皆、このもやを見つけると力のある者に伝え消してもらうようにしていた。
達海の場合、力が“太陽”の力でそれは他の者とは比べ物にならないほど強い力であるため――特に緑川の結界の均衡を崩してしまう可能性もあり――闇側にも感づかれてはいけないと力を使うのをやめていた。






「ぺってしろ、ぺって!」






犬に歩み寄ると黒い犬は「バウ!」と尻尾を振って吠えてから達海に飛びついた。
ぱたぱたと尻尾を振る犬(あくまで犬みたいな何か)に達海は微笑むと頭を撫でる。




「…なにしてるんスか」


「あ、赤崎」





廊下を歩いてきた赤崎が眉を潜め、それから犬を見、目を見開いた。





「こいつ黒いもや食ってたんだけど平気かな」


「ああ、こいつ俺の力が具現化したやつなんで平気っスよ。体が黒いのはもやを食ってるからっス」



星の力を扱える人間はその力を使う時、力を「形」にしたり何かの媒体にのせて使う。
10年ぶりに再会した村越なんかはその力を大剣という形にしてるし、堺は銃に力を乗せて弾として星の力を使っているし、緑川に関しては折り紙を媒体にして力を使っているらしい。





「え、力って動物に具現化すんの!?」


「必ずしも力の形が物っていうのはないらしいっスよ。つっても俺の力は闇の力を払う…“無効化”っていうあまり使えない力っスけどね」




赤崎の力は闇の力を無効化する“相殺”の力らしい。しかし本人からしてみたら、達海の持つ太陽の力の一つである“浄化”と比べたら全然使えないという。

黒いもやなどは消すことができても純粋な闇や闇の者の中でも強い人間の力は無効化というより防ぐので精一杯だそうだ。






「まぁ、赤崎みたいな奴にそんな力が宿ったってのも不思議だけどさ」






犬を撫でながら達海が笑う。







「お前は戦いに相手を傷付けるのを求めなかったんだな」






達海を見ていた赤崎は一瞬呆けたような顔をし、それからなぜかその眸に一瞬寂しげな色を宿した。






「そいつ、俺以外の奴には懐かないんスよ」


「え、そうなの?」





勝手に具現化しては世良さんとかに噛みついてるし、と赤崎は言いながら自分の許に戻ってきた犬を一撫でする。








「―――…冥王星は王を消さんとする全てのものを切り払う力を」




「??」



「俺が自分の中に宿る星の正体に気付いた時に星と交わした誓い」




力を使うのは第一段階の選ばれた者。

その力の源である星の正体に気付いた者はその星と誓いを交わし「星の使者」となる。
その誓いのままに「力」が形を作り太陽を守る、共に戦う武器となる。

そしてその誓いを破ることは星への裏切りとなり、星の使者は体内の星に体を崩され最後には消失する。






「…これじゃ切り払いもできないっスね」


「あか



「達海さん」





赤崎が達海の目を、見る。










「もしも“その時”が来ても“絶対”に“俺の名”を呼ばないでください」










絶対に、と祈るように言う赤崎に頷くと赤崎は「あんまウロウロされると面倒なんでやめてくださいね」といつも通り生意気なことを言って去って行った。

なんだ、アイツ。と呟いてからまわりを見回す。
田舎暮らしをしていた時よりも話し相手がいるおかげで暇ではないが皆何かと“太陽の力を持つ王”だからと自分を大切に扱ってくれる反面少しさみしくもあった。






よし、こういう時は。



アイツんとこ行こう、と達海は心の中で呟くと目的地へと歩きだした。

























「持田ー、いるー?」


「んー、いるよー」




本部である建物の東に在る医務室へ入ると丁度珈琲を飲んでいる白衣姿の男が椅子に座っていた。
この男は本部に来てから何かと突然ぶっ倒れる達海を看病してくれる奴で、そのうち話し相手となってしまった。





「なにまた来たの」

「みんな攻防戦とか修行とかで相手してくんなくてさー」



「ぎゃはは、ハブられてやんの」






この男…持田は星の力が使えない。
使えない、というよりまだ目醒めていないらしい。

力が使えない奴は他にもいてそういう奴らは主に戦闘ではなく雑務を担い、持田は医務室で体調を崩したり闇の気にあてられた人間を看病している。






「で、また試しに来たの?」


「うん」







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