□ひとりぼっちの世界
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その眸は何を見てきたんだろう。


ぼーっと空を仰ぐ葵の横顔を盗み見て思う。
飄々と立ち振る舞い、滅多なことがない限り本心を出さないこの男は、
どんな感情でこの景色を見ているのだろう。



時々本心を露わにする葵は大袈裟なくらいに物事を捕え、語る。
自分自身あまり本心…感情を露わにしないことからあまり葵のことは言えないが、
葵が感情を爆発させるのと自分が感情を吐き出すのとでは違う気がする。





葵は常に爆発した感情の矛先を葵自身にむける。
自分を責めることしか知らないのだ。
全てを相手に押し付ける自分とは全く対照的な存在。





「…ハラ、へったなぁ」



ボソリと横で葵が呟く。
それがなんとなく呟かれた意味のない言葉だと判っていた。


この男は常に自分の存在を肯定しようとする。
言葉を発信し自分以外の存在に言葉を返されることで存在を肯定する。



それしか、できないのだろうか。
そんなことをしなくても存在なんて肯定しなくても、此処に居るのだというのに。




「葵」








それでも言葉を返してしまうのは、存在を肯定してやらないと
この男は呆気なく拡散するように消えてしまいそうな気がするからだ。
脆い、儚い、嗚呼誰が…この男から





人に寄り掛かる術を奪ってしまったんだ。





「帰るぞ」




この男はひとりなんだ。
ひとりの世界に存在している。

だからその世界を肯定するために外の世界に言葉を発信し続ける。



その世界にそれだけの価値が在るのか?
この世界はそれを捨てるほどの価値はないのか?



(そう想う俺でさえ君という存在の重さを受け止められるか判らずに、
無理に触って壊したら、と恐れてふれられずにいるというのに)




「ああ」




もし君が掴んでくれたら迷わずに恐れずに支えられると思い
少し伸ばした手さえ君の眸は拒絶して





「帰ろうぜ」





再びひとり夜に染まった道を歩き出した。



























君は誰かに独りの世界に放り込まれ
そして君も一人の世界を肯定するために


また外の世界の声を聞こうと
(存在を肯定しようと)


言葉を紡ぐんだ










→アトガキ
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