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□愛してるのに、離れ難いのに
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「送ってもらっちゃってすみません。気をつけて帰ってくださいね。」

君の寂しそうな笑顔に
頭で考えるより先に、身体が動いていた。


彼女の身体を引き寄せて、この腕に抱く。

何度交わしても飽く事のない抱擁と口づけ。

日に日に愛しさが増してゆく。


何度かの口づけを経て、どちらからともなく身体を離した。

名残惜しみながら。


君の唇は媚薬。

理性総動員で君を家まで送り届けたのに、離れ難くなってしまう。



濡れた彼女の唇を、親指でなぞった。


「あの時、みたいですね」


じっとこちらを見つめながら、彼女の口元が緩む。

あの時‥ファイナルのあの時か。


君は知らないだろう。

あの時もこうやって、君にキスをしたかったんだ。



「離れたくないな」

「泊まっていきますか?」


君の家に泊まったら、何のために家まで送り届けたか判らなくなる。

絶対、理性が持たない。 断言する。


「いや、止めとくよ」

苦笑しながら答えた。



「じゃあ、な。」

「…はい」

そっと、最後まで名残惜しく触れ合っていた指先も離れた。



「鍵かけるの、忘れるなよ」

「大丈夫ですよ」

「それを忘れるのが君なんだよ」

「‥すみません」


思い当たる節が多々あるらしい彼女は素直に謝る。

少しの沈黙の後、今日はすぐに鍵かけますから と彼女は笑った。


「それじゃ、ありがとうございました」

「おやすみ」

「おやすみなさい」


彼女が扉に消え、カチャリと鍵がかかる音を確認すると

その場を立ち去った。



二人で通ったばかりの道を今度は一人で歩く。

同じはずの景色がさっきとは違い、色を無くしていた。










君から離れたくない。

でも君から、離れなくちゃいけない。




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