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□君の為にできること
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君は覚えているだろうか

あの日、一緒に見た映画を。
彼女の決死の告白を、愛を、男は受け止めることはしなかった。

隣の席で泣いていた君。
『2人は両思いなのに、なんであの時彼は彼女の思いを受け入れてくれなかったんでしょう‥』
見終わった後寄ったカフェで、眉を下げながらつぶやいていた君。

俺にはそいつの気持ちが判る。
大切で、大切で。でも一緒にいると彼女を不幸にしてしまう。幸せは長くは続かない‥。
だから男は受け止めなかったんだ。

君は今、あの日と同じように思っているのだろうか。
何故、と。
それともこんな男のことはもう、忘れてしまっただろうか。

忘れて欲しい。
心から願っていたことなのに、胸が痛むのは何故だろう。


考えた末に君の為には一番の選択をしたんだ。
自分の選択は間違っていない。 ‥間違うはずがない。

たとえ自分の胸が痛もうとも、彼女が幸せならそれでいい。
きっとこれで彼女は幸せになれる。


『だって彼は自分のことしか考えていませんよ。
病気だからって、居なくなっちゃうからって、1人で全部決めちゃうのは狡いです。
きっと1秒でも長く彼の傍に居られることこそが、彼女の幸せだったと思うから‥』

彼女の言葉を何度も思い出すのは、
映画の男を思い出し、自分に重ねたからだろうか。
彼女が自分のことを言っているように、思いたいからだろうか。


君への気持ちが深すぎて、舌先で凍ってしまっていた言葉。

「君が好きだ‥」

自身にも聞こえない程の、声にならない言葉を紡いだ。
一人になった今なら、はっきり言葉にしても罪にはならないだろうに。


思い出すのは君の香りと、温もり。


帰りたい
君のもとへ

君がいつも笑っていたあの、毎日に。

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