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□Trick or treat!
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「ただいま‥」
「Trick or treat!」
カギをあけ、ドアをあけて 「ただいま」 ここまでは日常。
カギをあけたつもりが閉まってしまい、彼女に説教するのは非日常‥ではなく、よくある光景。
この日、いつも通りでは無かったのは彼女である。
いつもなら「おかえりなさーい」と台所から返事をしたり出迎えてくれる彼女だが、
この日はおかえりの言葉は無く 玄関にて「Trick or treat!」
黒いコートを身に纏い、フードを被り、手にはオレンジ色の小さなカボチャ。
(ああ。今日はハロウィンか‥。)
『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ』 と言われても秋山がお菓子なんて持ち歩くはずがない。
「お菓子なんて無いんだけど‥あげなかったら “イタズラ” してくれるわけ?」
「ふふふっ!何か悪戯しちゃいます!」
秋山と直の考える”Trick”には大きな違いがあった。
イタズラを仕掛けた子供のように、熱を帯びた大人のように、口角を上げながら秋山が問うた言葉は直には伝わっていなかった。
(だよな‥)
彼女の言う悪戯は当然、子供同士の悪戯。秋山は小さくため息をつき、さてどうするかと考える。
「Trick or treat!」
もう一度彼女が言った。 これが最後通告だと言わんばかりに、満面の笑みで。
秋山は直の傍に行くと、右手を伸ばし彼女の頭を引き寄せる。そしてそっと、キスをした。
唇を重ねるだけだが、角度を変えて何度も、何度も。
「っ‥んっ・・」
彼女の口から吐息が漏れた頃、彼女を解放した。
「お菓子の代わり」
フードの上からぽんっと頭を撫で、彼は玄関を塞いでいた可愛らしい魔女を攻略した。
お菓子と悪戯、どちらも彼女に与えることができた秋山は満足げに笑っていた。
『Trick or treat!』
「で、この衣装は何?」
「魔女です!」
いや、それは何となく判るんだけど‥と彼が続けると
「あ、これはフクナガさんに借りました!」
彼女は黒いコートを広げてみせた。
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