text1
□罪人への免罪符
1ページ/1ページ
人は何故、裏切るんでしょうね。
そこに幸せなんてないのに。
テレビを見ていた彼女が突然、ぽつりと零した。
「直?どうした?」
読んでいた本から彼女へと視線を移すと、彼女の瞳には涙が溜まっていた。
テレビを見てみれば、行政機関の情報漏洩のニュース。
彼女が悲しくなるようなニュースでもなく、困惑した。
「どうした?大丈夫か?」
涙を溜め、流さないよう耐える彼女を見るのが辛かった。
「だって‥皆さんは、最後まで仲間を信じていたのに。
はじめの発表の時、声が震えてたんですよ。後からインタビューされてた他の幹部の方も泣いてみえました‥」
信じていた仲間に裏切られた。
その悲しみは、あのゲームで彼女は沢山味わっていた。
何度裏切られても人を信じることをやめなかった彼女。裏切られる悲しみを誰よりも知っている彼女。
「あのゲームを思い出してきっと、悲しくなったんです。悲しみって伝染するんですよ。
でもゲームの時、私には秋山さんがいたし、最終的には信じてくださる仲間が増えました。
この方たちも、信じることをやめないで欲しいですね‥」
「そうだな‥」
人は裏切られると信じることが怖くなる。人を信じられなくなる。
それでも人を信じることをやめてはいけないと。信念を貫きながら強くなっていった彼女から学んだ気がする。
何もかも信じてしまう彼女は些か問題ではあるが‥。
「でも・・・この情報を流した本人は、仲間を裏切ることになっても正義を貫こうと思ったんだろうな」
「え?」
「この本人からすれば情報を漏洩することこそが正義なんだよ。昔ニュースになってた食品偽装を告発した人も従業員からしてみれば仲間を裏切ったことになるだろう?」
「そんな・・・」
「今回の事件で漏洩することが正しかったかどうかは、人それぞれの考え方による。どっちも正しいし、正しくないかもしれない。」
「・・・・難しいですね」
「まぁ君も正義を貫けば、時には仲間や俺をも裏切ることが必要になるかもしれないってこと。
信じることは間違ってないし、君が思う信念を貫くのも正しいことだよ。ただ万人が正しいと思ってくれることはこの世の中そんなに無いかもしれない」
難しい顔をして考え込んでしまった君。
「秋山さんの‥ようにですか」
彼女が少し苦しそうに、言葉を紡いだ。
「秋山さんは詐欺でマルチを潰して犯罪者になってしまったけれど‥私は正義を貫いた人だと思います」
「それは‥」
「違いませんよ?秋山さんは、皆を救ったんです。他の人が認めてくれなくても、私は秋山さんは悪くないって‥思ってますから」
彼女の眉が下がり、また泣かせてしまいそうで。
「ありがとう」
彼女を抱き寄せた。
「まぁ君は、君が正しいと思う道を進めばいいんだよ」
頭をぽんと撫でてやると、そうですねと笑った。
罪人への免罪符
どんな道を進んでも、君は俺が守るから。