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□friendly feelings
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「カンザキー!」 と呼ばれ、

「はい?」「なによ!」 同時に答えた。


これが彼女との出会いだった。



大学の学食で、たまたま近くに座っていた彼女。

呼ばれたのが自分じゃなかったと気付いた彼女は、慌てて「すみません!」と謝っていた。

「カンザキ」って苗字は珍しくはないけど周りに沢山居る苗字じゃないから苗字で呼ばれたら自分。っていう感じだった。
きっと彼女もそうだったんだろう。

「えーと、カンザキさん?」
「はいっ!」

謝り倒してる勢いそのままに返事をしてくれたので思わず笑ってしまった。

「カンザキさんならさ、謝る必要ないじゃん。 このバカが呼んだのはカンザキさんって名前なんだから。
鈴木さんとか田中さんとか呼べばきっとそこらじゅうの人が振り向いて恥ずかしい思いするのはこいつなのよー」

ぱちくりと瞬きをしたかと思えば、ふわりと笑った。 笑顔の彼女を見るとこっちまでつられ、2人で笑いあった。

ちなみに隣のバカなんて『にへらっ』って言葉がぴったりの笑い顔。 口閉じなよ‥アホさ倍増だから。

「で、アンタはあたしに何の用だったわけ?」

「え?何だっけなぁ‥? あ、野口がノート貸してくれって半泣きで探してたぜ」

「ああ、サボったツケが回ってきたんでしょ。あたしのノートは高いからねって言っといて」

「おう」

「今すぐ!言いに行くのよ!」

「ええ?」

そんなぁ‥と言わんばかりの邪魔者を追い払うと、隣でカンザキさんがくすくす笑っていた。

「あ、私カンザキナオっていいます」

振り向いたあたしに彼女は自己紹介をしてくれた。

「え?」 

「えっと、カンザキナオです。」

聞き取れなかったのかと思ったのか、丁寧にまた自己紹介を繰り返す。

「ああ、ごめんね。 名前まで似てる〜と思ってびっくりしちゃった。
私の名前はカンザキシオ。 カンザキは珍しい漢字のやつなんだけど‥」

手元にあったレポートの 『菅崎志緒』 という名前を指差した。

「ほんとだ、珍しいカンザキさんですね!」

「でも音で聞くと カンザキナオとカンザキシオ。なんか姉妹っぽいね」


それが始まり。

同い年だから双子っぽいとか話をしながら、色んな話で盛り上がった。

少し話しただけで判る、この子はとても純粋でいい子だ。


彼女、神崎直とは学科も とってる授業も違うけれど空き時間が重なる日が多く、
学食でよく会い、そのうち一緒に遊びに行くようになった。

可愛くて可愛くてしょうがない。
同い年だけど、友達だけど、なんだかほっとけなくて。妹が出来たみたいな感覚だった。


彼女自身 よく言われるんですと言っていたバカ正直という言葉がぴったりで、ちょっぴりドジ。

一人にするのが心配になる、純粋培養された女の子なんだ。


彼女をほっとけない。と思う一方で、彼女の傍に居るとほっとする。

嘘だらけの世界で、彼女ほど信用できる子はいない。


仲のいい友達同士に見えていた子達も、お互いが離れればお互いの悪口を言い、
まともとは言えない方法でお金を稼いでる奴らが居て、
恋人には女友達と遊ぶのに仕事と嘘をつかれ、
仕様もない嘘を繰り返す友達や知り合いなんて沢山いる。

そして私も、いつしか嘘をつくのが上手くなった。
人間関係に余計な波風をたてない為に、人はうまく嘘を吐く。

大学に入り少しだけ大人の世界に入ったら見えた、汚れた世界。
少し絶望していたところに現れた、光みたいな女の子。

彼女の傍に居ることで救われていると感じることは少なくない。

しょっちゅう騙されて危なっかしい彼女。
目が離せないからとお姉さんぶって傍に居るけれど、護られてるのはあたしの方。



** friendly feelings **




彼女には幸せになって欲しい。

心から願うんだ。





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この子のために何かしたいと、強く願う。




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