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□ふたりの、印
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直は自分の胸元の印を見つめると

ゆっくりと視線を彼の胸元に移動させた。


吸い寄せられるように目の前の肌にそっと口付けると、ペロリと舐めた。

(寝てる間に、そっと‥)


彼女は目を伏せると更に唇を寄せ、きつく吸い上げた。

彼が印をつける行為を思い出し、同じようにきつく。


そっと唇を離すと、彼の肌には所有の証が赤く色づいていた。

(つけちゃった‥)

つけたばかりのその印をそっと指でなぞる。


「‥はじめて」

「えっ?」


彼女は声のする方を驚きながら見上げてみると、優しい笑みを浮かべた彼が見つめていた。

「おっ‥起こしちゃいました?」

その言葉に、彼の表情は少し意地悪な笑みに変わる。


「もしかして‥起きてたんですか?」

「さあね」

「もうっ、いつからですか!」

彼はくつくつと笑い起きていたことを肯定する。

彼女を解放し自身についた赤い印に触れると、それより‥と続けた。

「君がつけてくれたのは初めてだね」

「‥っ!」


寝ていると思いそっとつけたそれ。

いつかひとりの時に気付くものだと思っていた。

自身が初めて胸元にキスマークを見つけた時のように。


つけている時に実は彼は起きていて、
正に今つけたその印のことを言われた彼女は恥ずかしくなり目を合わす事が出来ずにいた。


「嬉しいよ、君のしるし」

「え」

「君のものって印だろ?」

「はい‥。 あの‥私も嬉しいです」

このしるし、と真っ赤に咲き誇る花びらひとつひとつに彼女は触れた。


「悪い‥」

「えっ?」

「夢中で、つけすぎた」


人前で着替えをする機会はそう無いとはいえ、鎖骨のあたりまでつけてしまった独占欲の印。

胸元の開きすぎる服は論外だが、少しくらい開いた服でも覗いてしまう。


「いいんです。私が秋山さんのものだっていう印でしょう?」

「まぁ、どんなに目が悪い奴が見ても判るほどのな」


ふふっと彼女が笑ったので、彼も笑い、抱きしめあった。

彼の胸元に寄せられた直の顔。

目の前には先程つけた印があった。


その上からそっと、口づける。

暫く口付けた後名残惜しげに唇を離したが、尚も赤く咲き誇るその印を見て笑みが零れた。



「どうした?」

「ふふ、嬉しいんですよ。これを見るたびに秋山さんは私を思い出してくれるかなぁって」

「へぇ」

彼は直の頬に触れると両手で優しく包み、そっと自身に向けさせた。



「つまり君は、いつも思い出してくれてたんだ。」

「‥っ!」


瞬時に彼女の顔は赤く染まる。

彼の唇は弧を描いていた。





あなたに、印




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