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□忘却の夢
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忘却の夢




夢を見た。

夢は目が覚めたら覚えていないものだなんて、時間が経てば忘れるものだなんて誰が言ったのか。

目を瞑れば彼女の涙が鮮明に思い出される。
彼女が何かを伝え去っていく姿が、小さくなっていく後姿がはっきりと思い出された。


違う。

ちがう。


去ったのは彼女ではなく、自分。
彼女に置いていかれたのではなく、自分が彼女を置いてきた。

現実に去ったのは自分であるのに。

何故彼女に去られた夢を見る?



答えは簡単だ。


自分が去らなければ、そうなっていた。
きっとそれが現実だから。

去られる前に去った。

彼女を傷つけないように、自分は傍にいてはいけないのだと自分に言い聞かせ体裁を取り繕ってみた。


要は怖かったのだ。

彼女に捨てられるのが。


ゲームが終わった今となっては彼女に俺は必要ない。
あの奇異な空間から現実に戻り目を覚ました彼女に拒絶されるのが、忘れ去られるのが怖かった。

夢の中、去り行く前に彼女は何を言った?
彼女の涙、後姿は思い出せても、彼女の言葉が思い出せない。

今はっきりと思い出すことが出来るのは 胸に鈍い痛みをもたらす彼女の表情、涙、去り行く姿。


夢とはやはり、時が経てばこうして忘れていくものか。



ならば、

現実の記憶はいつになったら忘れることができるのか。



別れを告げた時の彼女の表情が脳裏に焼きついている。


君が好きだった。

離れて、忘れる努力をして、忘れられなくて。


望むことも許されないはずの君との未来を望んでしまった自分。

現実には起こり得ないことだと冷静になった自分。

そして、逃げた自分。




君はそろそろ俺の事を忘れただろうか。

それとも少しは思い出してくれているだろうか。




もう、忘れて

(やっぱり、忘れないで。)





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