‡A la carte‡

□消えた恋心
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抵抗処か、殴る事も出来なかった自分にも腹が立つが、『口止め』と称して男にキスされた事にも腹が立つ。

諏訪部と秀一は同じクラスに居ながら全く接点のない関係だ。

成績も中の上くらいに対し諏訪部は常に上位3位を競う程頭が良い。

秀一は友達も多く、人の輪の中で騒ぐのに対し諏訪部はどちらかといえば少数の友人と静かに話すタイプ。

そんな人の輪にいる秀一が昼休みに科学準備室に行くのは、人が居ないガランとした教室が好きで、運動部にも籍を置いていたが、科学部の部長の立場に居るからだ。

騒がしい中に居るのも好きだが、人がおらず一人で物思いに耽るのも好きだった。

『ありえねぇありえねぇ!ありえねぇ!!』

遅れてきた怒りは、秀一に拳を握らせ、身体を震えさせ、歩く足取りさえ乱暴にさせた。

諏訪部を殴ってやろうかとも思ったが、殴れば事情を説明しなければいけなくなり、片親である母親も学校に呼び出され、しかも自分のプライドが傷つくだけ。
ソレは避けたかった。

『あの野郎マジムカつく!』

秀一が教室に戻ると、諏訪部は既に戻っており、涼しい顔で友人と会話していた。

人にあんな事をしておきながらと思ったが、努めて気にしない様振る舞った。

このまま時間が過ぎれば話す事の無い諏訪部とは全て過去の笑い話になると信じて。


−−−−−−−

『……ここは…何処だ?』

燃える様な夕日に、辺り一面が真っ赤に染まっているある住宅街に秀一は一人佇んでいた。

道の向こうから、子供が二人仲よさ気におしゃべりしながら、じゃれあう様に走ってくる。

分厚いジャンパーを羽織り、帽子を深く被り手袋までしていた。

「今、夏…だよな…」

秀一は不思議に思ったが、暑くも寒くも感じない。
吐く息は白いのに寒さも感じない事から、ただ漠然と『コレは夢か』などと納得していた。

住宅街だった町並みは河原へと景色は変わり、先ほどの子供たちが川辺りで遊んでいる。

「僕たち、ず〜っと一緒だよ」
「うん。ず〜っとず〜っとだよ」

遠い距離にいるのにまるで秀一の耳元で話しているかの様にハッキリと子供達の声が聞こえる。

「…誓いの口づけを」
「やだよ。恥ずかしい」
「誰も見てないよ。ね?しゅう君」
「分かった。そんかし、お前は俺の嫁さんだかんな?約束しろよ」
「うん。しゅう君だけのお嫁さんになる」

夕焼けの誰もいない河原で、無邪気にキスを交わす子供二人に、絵になってんなぁ。などと感傷に浸っていたが、ある事実に我に返った。

『ん?しゅう君?ってオレ!?』

「ちよっ!お前らっ!」

急いで川辺に降りようとした途端、腕を掴まれ強引に後ろに引き込まれた。

「うわぁっ!ちよっ!!」

また辺りは一変し、何処かの部屋の様だ。
ソコは薄暗く、何故かベットの上に尻餅をつく。

「へ?どこ?ココ?」

展開の早さについて行けないでいると、ギシリとベットが揺れ、足の付け根に重みを感じる。

重さの正体を確かめようと、目を凝らすとソコには諏訪部の顔が高圧的に微笑んでいた。

「お前っ!?」
「他言無用でお願いしますよ」

諏訪部はぽつりと昼休みと同じ台詞を耳元で呟き、ベルトを外す嫌な金属音。

健全な高校男子なら、他人の上に跨がりベルトを外す意味くらい予想はつく。

「うわぁ!!!」

慌てて飛び起きると、ソコは見慣れた自分の部屋だった。

「夢…?」

ぐっしょりと汗で濡れた自分の身体。

「あの野郎…夢にまで出てきやがって!」

夢見の悪さを諏訪部にぶつける。
不当な怒りだと分かってはいるが、そもそもの諸悪の根源は奴なのだからと、自分に納得させた。

「それにしても…あのガキ共…」

夢に現れた子供達が気にかかった。
見覚えのある懐かしい河原。
小学生の頃、親が離婚し母親に引き取られる際、引っ越しを余儀なくされたが、それまでに育った町はあんなでは無かっただろうか?
その当時仲良くしていた女の子が丁度あんな感じだったか?

頭に霞みがかり上手く思い出せない。

「あ〜!くそっ!」

ベタベタと汗だくに濡れた身体と思い出せない苛立ちを流す為にシャワーを浴びた。

 
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