‡A la carte‡

□消えた恋心
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「好きです。付き合って下さい!」

今日も今日とて、人気の無い校舎裏で彼は同性から告白をされていた。

何が楽しいのか、彼は同性から酷くモテる。
幾度と無くその現場を見かける。

校庭裏であれば、人目も無く目立たないと思っているのか、俺の憩い場所の科学準備室からはまる見えだった。

「お盛んなこって」

確かに彼は長身で、顔も整い運動神経抜群。その上頭も学年上位ときたモノだ。

『天は二物を与えず』と言うが、彼 諏訪部 正樹は例外らしい。

ここが共学なら告白する相手にも女子が増え、尋常ならざる数であろう。

「ゴメン。悪いけど…」

彼ほどの容姿なら無論、えり好みは当然であり、より取り見取り。

今までに、男にしておくには勿体ない程の美男子でも、振っているのを俺は知っている。

「今回もダメかぁ?どんな奴なら良いんだ?」

誰に言うでも無く、ガランとした部屋に呟く。

呟いた彼、中村 秀一はそれなりにモテたが、あくまで人並みであり、諏訪部が同性とはいえ毎日告白されているのは羨ましい限りだった。

「理由を教えて下さい!じゃなきゃ納得出来ません!」

俺は三階の四角い窓から、まるでテレビでも見ている感覚に陥り、そのドラマの先を見続けた。

「今日はしつこいみたいだなぁ」

少年は諏訪部に抱き着き、縋る様に彼を見上げていた。

どうせ向こうからは見えないだろうと、机に突っ伏して食い入る。
と、次の瞬間、少年はやや乱暴に諏訪部に口づけた。

「えぇ〜っ!?」

衝撃だった。
思わず、立ち上がり窓に張り付く。

同性での恋愛話は、男子校だから耳にしたりはあったが、実際その行為を目の当たりにするのは初めてだった。

「あ、ありえねぇー」

諏訪部はされるがままだったが、少年は突如泣きながら踵を返し立ち去る。

諏訪部もカルチャーショックで動け無かったのかと思い、目を凝らしてよくよく見ると、涼しい顔で薄く笑っていた。

『あんな事されて何か言ったのか?』

ふと、諏訪部のその涼しい顔が上を向きバッチリ目があった。

「やべっ!」

急いでしゃがみ込み、身を潜ませたが、顔まで見られていただろうなと予測はついたが、あまりの出来事に動揺が収まらない。

我に返り慌てて部屋を後にしようとしたが、時すでに遅く、科学準備室のドアが開かれ諏訪部が姿を現した。

予想していたとは言え、やはり気まずい。

「中村君、先ほどの件ですが…」
「あ〜…いやぁ…モテるってのも…大変だなぁ…」

さっきのキスの件だと直感し、何とかフォローしようと必死に言葉を選ぶ。
被害者とは言え同性とキスなんてありえない。

先ほどの出来事で生じた動揺を悟られまいと秀一は、必死に表面上取り繕うが、あまり完成度は高く無かった。

「………ええ、そうですね」

落ち着いた諏訪部の言葉が紡がれた次の瞬間、ありえない現実が秀一に起こった。

腕を掴まれ引き寄せられると、眼前に広がる諏訪部の整った顔。
長い睫毛にスッと通った鼻筋、キリリと切れ長の瞳に薄く形良い唇。

普段マジマジと見る事の無い諏訪部の顔が広がった瞬間、唇を塞がれた。

「んー!!?」

ヌルリとした感触が口内を這い、高校生らしからぬキスに秀一は翻弄された。

『ありえねぇ!しかも上手い!?』

いつも告白を断る位だから恋愛経験は自分の方が上だと、何故か勝手に自信を持っていたが、諏訪部の口づけによって脆くもその自信は崩壊していった。

やっと唇が離れた頃には、足が震え立っているのもやっとで、肩で息をするほど翻弄された自分が恨めしい。

「同じ体験されたんですから、さっきの件は他言無用でお願いしますね」

クスリと整った顔を歪ませ高圧的な笑みを浮かべると、諏訪部は部屋を後にした。

「信じらんねぇ!ナニあいつ!!」
 
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