ノーマル

□臨誕
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 ん……

 臨也はベッドの中で、寝室に入り込んできた気配に身を固くした。枕の下のナイフをそっと握る。

 入れるのは波江しかいないはずだが、波江が入る訳がない。用事があれば呼ぶだろうし、呼べば俺は起きる。

 何より、今は深夜だ。


「いざにー!」


 ぐはっ。

 腹の上に鈍い衝撃。


「マイ、ル……!」

「いざにーいざにー、誕生日!」


 うっ……。

 いくら小さく軽いマイルとはいえ腹の上ではしゃがれたらたまったもんじゃない。


「退けマイル……」


 臨也はマイルを押し退けノロノロと上半身を起こす。鍵は……まぁ波江だろうな。自然に溜め息が溢れた。


「いざにーおめでとー!」


 無駄にキラキラしているマイルに更に深々と溜め息をつく。時間は……2時。


「ガキは寝てる時間だろ?」

「いざにー言葉遣い悪いよぉ? あ、もしかしてこの時間らしくあんなことやこんなことで起こした方が良かったのかなぁ」


 いや、入ってきた気配で起きるから。


「兄(いざにぃ)……」


 クルリが扉の向こうで室内を伺っている。


「祝(おめでとう)」

「……ありがとう。マイル、何をしようとしているのかな君は」


 臨也は服を捲り上げようとするマイルを払いのけ、立ち上がる。


「全くこんな時間に出歩きやがって。もう少し危機感を持つべきだよ」

「わー心配してくれるの? キモチワルー」

「マイル……」


 顔が引きつるのを臨也は隠そうともしない。どうせ暗いから見えない。

 と思ったその時。

 一斉に家中の明かりがついた。


「?」


 マイルに気を取られていたが、やたらと多い人数の気配を感じる。

 臨也は寝室を出、ロフトに立つ。

 丁度それを見計らったかのように、階下から、声が響いた。


『HappyBirthday!』


 正臣がUnHappyBirthdayを掲げている。帝人が真っ赤な薔薇の花束を散らかしている。波江が見た目は美味しそうなケーキを持っている。罪歌の目は見事に赤い。

 新羅とセルティは二人の世界を作っている。狩沢が遊馬崎と共に怪しげな布を持っている。ドタチンは隣で額を押さえていた。

 ……。

 複雑だ。

「いざにーケーキ食べよぉ! 」

 双子が腕にまとわりついてくる。これでは階段が降りられない……と思ったら二人はあっと言う間に階段を降りていった。

「なんでこんな事になっているんだ……」


 俺の家が……。

 シズちゃんがいないのが救いだな、こりゃ。


「臨也さん! おめでとうございます!」


 帝人がまだあったのか、巨大な深紅の薔薇の花束を胸に押し付けてきた。


「今年も遊びましょうね!」


 帝人の目が一瞬イヤな光り方をしたが見なかった事にしよう。

 園原杏里は罪歌が出てるから近づけないな。


「臨也さん、死んで下さ」

「久々に会ったと思えば相変わらずだね正臣くん」


 いきなりナイフを繰り出す正臣をひらりとかわし、臨也は首謀者であろう波江の元へ歩く。


「波江」

「あら臨也、良いお目覚めだったかしら」

 ニヤニヤと笑う波江に臨也はやっぱりかと肩を落とした。部屋の合鍵は渡してあっても寝室の鍵なんて渡さない。きっと前もって型をとっていたのだろう。


「いいわね、可愛くて」

「まさか本気じゃないよね波江」

「さぁどうかしら」


 一々言動が腹立たしい。


「そろそろ平和島静雄が来るわよ」

「何だって? 俺の家を壊す気か波江!?」


 臨也は目を見開いた。どんな嫌がらせだよ。


「私からのとっておきの誕生日プレゼントよ。たまには自分が出し抜かれるといいわ」


 くそっ波江……!


「そうですよ、臨也さん」


 いつの間にか全員臨也を見ている。


「たまには自分も出し抜かれるといいんですよ」

「いざにー、死んだらダメだよー? クスクス」


 ……あぁ、この家も終わりか。結構気に入ってたのになぁ。


「波江、正臣、暫く君らに休みはないからね。給料も出さないよ」


 臨也は来るべき敵に備え……ようとした瞬間ドアが吹っ飛んだ。


「いぃ――ざあ――やあぁく――ん」


 ああ、もぅ最ッ高の誕生日だよ。



――――――――――――



臨也誕生日おめでとぉぉぉぉ!

暫く更新出来なくてごめんなさい。新年度に向けて私生活がバタバタ……というのは言い訳になりますが。

臨誕祝いにお詫びもかねて、臨誕小話は期間限定フリーとします!

期間は5月一杯。

需要あるのか知りませんが、拍手なりなんなりで拐って行かれる方は一言下さると嬉しいです。
 

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