小話

□ふたりきりの世界
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耳に入るのは、ザァザァと降り注ぐ雨の音。
視界も狭く、匂いも雨のそれだけ。
ヒュウヒュウと気管を通り抜ける微かな音も、辺りを覆い尽くしていた鉄の匂いも、足元に横たえる塊も。
今となっては、あたしには何の意味も、効果もなさない。


「……無様ね」


あたしはその塊を蹴り上げる。
ばしゃり。
先程まで紅に塗れていたそれは、土のように色味を失っていて。地面に同化するように、転がった。

ザァザァと。
いっそう勢いを増した雨が、あたし達を打つ。
視界はますます悪くなって、音も匂いも雨以外はしない。
まるで、小さく狭い密室に閉じ込められているような錯覚さえ覚える。


「……ねぇ、」


今は、二人っきりよ。邪魔するものは何もない。
そう。
あたし達だけの世界。


「好きよ」


誰にも邪魔はさせないわ。
あたしとあなたの間には、何だって入らせない。


「愛してるわ」


新たに流れ出た紅は二つの塊を染め、けれどすぐに消えてゆく。
密室には、土気色した二つの塊と、鉛色の小さな塊だけが残された。



ふたりきりの世界




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暗っ!重っ!!
そして何より………恐っ!



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