ここの森にはある生物が住んでいるという。
その生物の名前は    ――― ポルン ―――
こいつらは限られた者にしか見ることができない。
見ることができるのは、『死』を見たことのある子供だけ。
子供の頃に『死』を見たもの。そして現在も子供であるもの。

2010年 10月30日     ……4年前の今日、
あたしの親友、綾乃は交通事故でこの世を去った。
あたしたち二人は11歳だった。

2人で学校の帰り道いつものように、家の近くの公園で
1時間ぐらい話し込んでいた。毎日、学校じゃ話せないことや、
話きれなかった話を、お互いの門限ギリギリまで話していた。

綾乃とは3年生の時、初めて同じクラスになって、話しかけた。
最初は怖そうな人だと思っていたけど話してみると、全然
怖くなくって、優しい面もいっぱいあるおもしろい人だった。
それからはほとんど一緒にいて、知り合って4カ月くらい
経った頃には、行きも帰りも一緒にいるようになった。
お互いの家が離れていたため、いつも中間地点にある公園で
待ち合わせして、学校へ行き、帰りはその公園で話し込んでいた。
これが毎日の日課だった。小学校5年生、高学年になっても
その日課が変わることはなかった。

その日もいつも通りの学校生活が終わり、2人でいつもの公園へ
向かった。公園に着き、入口に近いところにあるベンチに座った。
なにもかもがいつもと同じだった。 なにもかも。
話し始めて1時間くらいたったころだっただろうか。車の激しい
エンジン音が響いてきた。夕方になっていたため、
空気が透っていたのだろう。とても大きな音だった。
相当なスピードが出ているみたいだった。
そして、スピードが出過ぎてコントロールの利かなくなったその車は
私たちふたりがいる公園へとまっすぐに突っ込んできた…。
車は私たち二人を跳ね飛ばし、公園の崩した瓦礫の上で
ようやく止まった。
私は車がベンチに衝突した勢いで飛ばされたが、綾乃は……
綾乃は車に直撃だった。

綾乃の身を案じながら自分の足に激痛が走っていることに
気がついた。あまりのショックで気付かなかったみたいだった。
まだかろうじて意識のあった私は綾乃のもとへと向かった。
何度も名前を呼んだ。何度も何度も。しかし綾乃がその呼びかけに
答えてくれることは一度もなく、私の意識もそこで途絶えた。



次に私が意識を取り戻したのは病院に運ばれた次の日だった。
私はすぐさま起き上がって両親や先生に
『綾乃は?!』
と聞いた。しかし、みんな黙りこみ、先生が
『綾乃ちゃんは、車が直接ぶつかって、救急隊が到着したときには
もう意識は無かったそうだ。即死だった。』
といい、続けて、
『綾乃ちゃんに会いたいかい?』
と聞いてきた。私は震えた声で
『はぃ…。』
と答えた。そして先生と両親に付き添われながら、綾乃のいる場所
《遺体安置室》へと向かった。
遺体安置室には冷たく、青白くなった綾乃が殺風景ない他の上に
横たわっているだけで他には何もなかった。
私は自分の足を引きづりながら、綾乃のもとへと向かった。
綾乃は石みたいに冷たくて……いや。石なんかよりも、もっと……。
『………綾乃っ……!!!』 大粒の涙が次から次へと床へ落ちてゆく。
後ろで私の両親たちがすすり泣く声が聞こえて、それを先生が
なだめているみたいだった。綾乃の両親はその場にはいなかった。
もう面会は済んだのだろうか。
無意識にそんなことが頭をよぎりながら、
私は冷たくなった綾乃の前でただ涙を流すことしかできなかった。





それから4年の月日が経った。私は高校1年生になった。
でも、私の隣に綾乃はいない。綾乃はあの時死んだのだから。

この4年間、綾乃を通じて仲良くなった友達や、自分から
仲良くなった人達と、当たり前のように生活してきたが、
綾乃のことを忘れたことは、タダの一度もなかったんだ。
綾乃は、大切な大切なたったひとりのあたしの親友だからね。

10月29日 綾乃を通じて仲良くなって、高校も一緒の千恵と
綾乃の事を話していた。
千恵『明日、綾乃の命日だね。』

唯衣『うん、もう4年も経つんだよね。』

千恵『早いねー、唯衣は明日、綾乃のお墓行くんでしょ?』

唯衣『そりゃぁ、ねぇ。もちろん行くよ。大切な日だもん。
ちゃんと綾乃に顔見せてくるよw 千恵は??』

千恵『私も行くんだけど、ちょっと断れない用事が入っちゃったから
朝一番に行こうとおもってるよ。』

唯衣『そっか、あたしは先に公園行ってからだから、
すれ違いになるかもね。』
――キーンコーン カーンコーン――――
唯衣『あっ、チャイムだ。戻ろっか。ばぃばーぃ』

千恵『ばいばいー』

千恵と別れ、私は教室に戻り、自分の机に座って、
次の授業の準備をした。次の授業は嫌いな数学だ。
「本気で嫌だ。はぁぁ。最悪。」 そう思っていると、本鈴の
チャイムが鳴って、授業が始まった。


10月30日  綾乃が死んでから4年目の命日。

今日も去年とかと同じように、まず向かう場所はあの公園。
綾乃と最後に一緒にいた場所。あの事故のあった場所。
家から歩いて公園に向かい始めておよそ8分くらい。到着!
4年前、車のぶつかった衝撃で瓦礫と化した壁はすっかり
元通りになっていて、それ以外もほとんど変わっていなかった。
ベンチに座って、綾乃のことを考えた。
綾乃が死んでしまってすぐの頃は…
「なんで、綾乃が…??綾乃が死んでしまうくらいなら、あたしが
死んでしまったほうが、ずっと…ずっとらくだったんじゃ…。
どうして……。  帰ってきてよ、綾乃っ……!」
…こんなことを毎日のように考えていたなぁ。
そんなことをベンチに座って考えて、
『あっ、お墓も行くんだった!!早くいかなきゃ!!』と独り言をつぶやいて
綾乃のお墓のある場所へと向かった。

綾乃のお墓のある墓地へとついた。〈冨田家〉のお墓を探す。
前に来たのは…たしか受験が終わってすぐの頃だったと思う。
半年ぶりぐらいかな?ここへ来るのは。
〈冨田家〉のお墓の前にきた。そこには千恵が置いたらしい、
小さな花が置いてあった。その小さな花をみて、千恵らしいなぁ。
と思ってクスッと笑った。それから桶に水を汲んできて、掃除を
始めた。今年はあたしが掃除を頼まれている。

…『ふぅ、やっと終わったぁ。』そう言ってため息をついた。

『綾乃ー、どぉ??きれいになったでしょ?
我ながらめっちゃ磨けた気がするんだけどーw
…もう、綾乃がいなくなっちゃってから4年も経っちゃったんだよ?
あたしもう、高校生だし。早いよねー。
もう、受験の時どうしようかと思ったね。やばくて。
あっ、この話は前にしたんだっけ。ww
今は友達いっぱい出来たんだよ!!いすぎてわかんなくなるくらいw
でも、やっぱり綾乃が一番隣にいてほしいなぁ。こんなこと言ってたら、
また甘えてばっかり!!って怒られそうだよねww
でも、そういうとこは何年経っても変わんないよねー。
あっ、そういえば、好きな人も出来たんだよっ!!
今まで通り、あんまり恰好よくは無いんだけどね、優しくて
いい人なんだっ。綾乃とも好きな人のこととかよく話してたねーw』

そう、綾乃に話しかけるように、独り言を言ったあと、お花とお線香を
あげて、手を合わせてばぃばぃしてきた。

墓地の階段を下りていくと、隣に森があった。前に来た時、こんなの
なかった気がするんだけど…。私は好奇心に駆られ、
その森の中へと入っていった。

森の中はとても静かだった。周りに何もないからなのか、
何の音もしない。しかし、木々が風で揺れる音さえもしないのだ。
少し、疑問に思いながらも奥へと足を進めていくと、
目の前は大きな空間になっていて、きれいな泉があらわれた。
それはとても不思議な泉だった。キラキラと七色に光り、
波を立てていた。そして、その奥には、とても大きな木が
たった一本だけ立っているのだ。その周りには小さな光が…。
気になって泉に近づいてみた私は、その小さな光が
動いている…。というよりは、飛んでいるということに気がついた。
気になって、その飛んでいる光に近づいて行ってみると、
その光はみるみるうちに大きくなり、私を包み込んで行った。
あまりの眩しさに思わず閉じたまぶたを開けてみると、目の前に
広がっていたのは、見たこともない世界……。
でも、とても…とてもきれいな世界。

…そう、そこは妖精の世界。私の目の前に現れた一匹の妖精。
妖精は飛びながら小さくきれいな目で私を見ながら、
「どうしてここにいるの??君は誰??」と問いかけた。
私は、一瞬動揺しながら、
『あっ、えっと。森に入って泉を見つけて周りが光り出したと思ったら、急にここに…』……私は焦りながらそういった。
するとその妖精は
「どうして、君には僕が見えるの??」といった。
今までのスルー?っていうか、
どうしてって…??みんな見えるんじゃないの??
『どうしてって…?見えない人もいるの??』
私は妖精に聞いた。するとその妖精は、しばらく考え込んだ挙句、
「君は、長老に見てもらう必要があるかもしれないなぁー」と言って、
「ついてきてっ!!!」と一言いって、すいっっと飛んで行ってしまった。
待っててくれた。しばらく歩きけて、大きく開けた場所に出た。

そこには、最初に会った妖精と同じようなのがたくさん飛んでいた。
今まで一緒にいた妖精が私に近づいてきた。
「こっちだよ!!!長老に会わせてあげるっ!!」そう言って、私を少し引っ張った。
開けた場所から少し入り組んだ奥のほうに入り、木の根をくぐると
そこには、とても大きな妖精がいた。その大きな妖精の周りには
小さな妖精たちもたくさんいた。一緒にいた妖精は、私を
長老のもとへと案内した。長老はとても大きく、イスに座って
ゆっくりとみんなを見守っていた。
妖精が長老に私のことを説明した。何やら不思議な言葉を話してるようで、
あまりうまく聞き取れなかった。
2人の会話が終わると、長老が私に話しかけてきた。
今度は私たちの世界の言葉で。
「はじめまして。ここをまとめている長老です。
話はこの子から大体聞きました。
不思議の泉に迷い込んでしまったようですね。
偶然、この木に実がなる瞬間に迷い込んだのでしょう。
木は、実をつけるとき、まばゆいほどの光を放ち、
時々、違う世界の者をこちらの世界へ連れてくるのです。
それがあなただったのでしょう。」
動揺するばかりだった。突然、違う世界に飛ばされて、
それは、偶然、実がなった時だったから。だなんて。
そして長老は再び話し始めた。
「あなたが元の世界に戻れるようになるには、
申し訳ないが、次の果実がなるまでかかってしまう。
その間、この子とここで過ごしてはもらえないだろうか?
この子の名前はポルン。どうだろう??」
『あっ……はい。もちろん……』…言葉がでてこない。
頭の中がごちゃごちゃで、真っ白。何を言ったらいいのか。
……ちょっと待って。冷静になろう。私は、次の果実がなるまで
自分の世界には戻れない。だからそれまでここで暮らすんだ。
そうだよ。そう、ここで暮らすの。少しの間……。
私は改めて、長老に返事をした。
『ぜひ。よろしくお願いします。お世話になります。』
そして『よろしくね!!ポルン☆』ニコニコと、ポルンに挨拶をした。
こうして、妖精界での私の生活が始まった。


妖精界には、不思議な食べ物がいっぱいあった。
今まで食べたことないような、不思議な形をしたものや、
さまざまな色に変わる果実。そして、好きな味に変わる飲み物…。
妖精界での生活はとても楽しかった。
…でも、時々自分の世界の事を思った。綾乃のいない世界。
けれど、大事な家族や、他の友達のいる世界だ。
思いだして、涙を流すことも時々あった。そんな時はいつも
ポルンがなぐさめてくれた。ポルンは私の事をよく気遣い、
優しくしてくれた。もう家族同然だった。

ポルンとも村の妖精とも仲良くなれて、打ち解けてきた頃、

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ