GS3


□気になるあの子
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お前の顔を見ていたい。

それだけで幸せな気持ちになる。

お前が笑うと、嬉しい。



「コウ」

「………あ?」

楽しそうに近寄ってくる琉夏。
にやついた顔。
何か考えてんな。

廊下を歩いていた俺に、琉夏が近寄ってくる。
何も言わずにうぜえ顔で見てきやがった。

「俺さ」
「何だよ」
「見ちゃった」
「あ?」
「さっき。授業中に廊下から」

こいつ、またサボってやがったのか。

琉夏は隣のクラス。
このクラスの授業中に、呑気に廊下を歩いてる琉夏を見ることが多い。

「コウ、あの子のこと見てた」
「………は?」
「んーと、あ。あの子あの子」

琉夏が俺の教室を覗く。
指差した先には、教室の後ろにいる女の集団。
その中に、あいつがいた。

「熱い視線で見てんだもん。すぐ気付いた。
 あの子名前何て言うの?」
「……くだらねえ事言ってんじゃねえ。帰れ」

びびった。

無意識の内に見ていた事を、運悪くこいつに見られてた。

さっきの授業中、眠くなっていた時。
ふと斜め前を見ると、名字がいた。

名字 名前。

同じクラスの女。
別に大して話した事は無えが。

けど、気付いたらこいつを見る事が多い。

他の女達と比べて、何つうか…いい女。
スタイルもいいし、顔もいい。
よく笑うし、いつもダチと一緒にいる。

正直………だいぶ気になる女だ。

だが、琉夏に気付かれた事がきつい。


「やっぱりコウでも、見とれちゃったりするんだ」
「見てねえ。うるせえんだよてめえは」
「わかるわかる。あれだけ可愛かったら誰でも惚れそう」
「…早く帰れ」
「俺には分かってるから。そんな意地はるなよ、コウ」
「本当うぜえんだよてめえは!」

何でこいつはこんなに楽しそうなんだ。

……確かに全て的を得ている。

けど馬鹿にされてるみてえな気持ちになんのは、こいつが面白がってるからだ。




「桜井君」

「だからうぜえっつってんだろ!なめてんのか!!」

いらつきが頂点に達し、思いっきり振り向いて怒鳴った。



「え…」

その驚いた声に、動きが止まる。

やっちまった。

そこにいたのは琉夏じゃなくて、名字だった。

目真ん丸くしてやがる。

こいつの後ろを見ると、楽しそうにスキップして去る琉夏がいた。



「わ…悪い。お前に言ったんじゃねえ」

琉夏の野郎……!!

「ふふ…、ううん、いいの。大丈夫」

そう言いながら笑った名字。

こんなに近くで笑った顔、初めて見た。


「これ、大迫先生から渡すよう頼まれて」

分厚いプリントを俺に差し出す。

「この前、授業いなかったでしょ?
 その時のプリント。テストに出るみたい」

「…お、おう。サンキュ」

何で俺はこんなにどもってんだよ。
…つうか、こいつとこんなに話すの初めてかもしれねえ。


「で、何がうるさいの?」

「あ?」

「さっき、桜井君に…あ、弟君に怒鳴ってたでしょ?
 大声だったから、少し聞こえて」

……き、聞かれてたのか…!?

「ちょっと内緒話してたんだ。ね、コウ」

琉夏がひょこっとやって来て、俺の肩から顔を出した。

こいつまだ居たのかよ…!

「あ、ああ…」

ぶっ殺す。
家帰ったら覚えてろよこの野郎。

「なんだ、二人の秘密か。私も聞きたかったな」

このままじゃこの馬鹿がまた余計な事言いやがる。
俺は強い力で琉夏の腕を掴んだ。

「……てめえは早くクラス戻れ。次さぼったら単位取れねえぞ」
「別にまだ大丈夫だよ」
「俺が氷室に言われんだよ。さっさと行け」

「じゃあコウが怖いから行くね、えーっと…何だっけ」
「あ、名字 名前」
「可愛い名前。バイバイ名前ちゃん」
「うん、バイバイ」

ポケットに手を入れてそこから去る琉夏。
あの野郎…。

「あいつ一回シメなきゃわかんねえな…」
「え?」
「…いや、何でもねえ」

すると、名字がふっと笑った。

「桜井君って、面白いね」
「あ? あいつか?」
「あ、えっと、琥一君のこと」

急に名前を呼ばれて一瞬ドキっとした。

「…面白いって何だよ」
「何か、一見怖そうだけど、優しい時があるし」
「………」
「少なくともあたしは、そう思ってるな」

そう言ってにこっと笑った。

「あ、次の授業始まるよ、行こっ」

「お…おう。これサンキュな」



やべえ、顔があちい…

女に優しいなんて言われた事ねえ。


俺のこと、見てくれてんのか?

まさか、な。


とりあえず、明日帰りでも誘ってみっか。



fin




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