GS3


□ほっとけない。
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女の怒鳴り合う声が、廊下に響き渡った。

……まただ。


「さっさとどけ」

「はあ? もう一回言ってみろよ名字」

「どけっつってんだよ。ぎゃあぎゃあガキみてえに騒いでんな」

「ふざけんじゃねえぞてめえ!先にいたのはうちらなんだよ!」

「んなの関係無えだろ!人が通るとこ塞いでんのが悪いんだよ!」


教室から顔を出すと、予想通りの顔ぶれがあった。
他の生徒達が遠巻きに彼女達を見ている。

ひそひそとした話し声に耳を傾けると、
狭い廊下にたむろしていた校内でも有名な女子の不良グループ。
他の生徒達が通れず困っていたところ、その真ん中を名前が突っ切って行ったようだ。
ガンガンと体を当てて歩いていく名前に、当然彼女達はキレた。

「ここにいてえからいんだよ。文句あんのか!」

「調子乗ってんじゃねえぞ。だらだら集まってなきゃ何もできねえのか。だせえんだよ!」

「うるせえ!」

そう怒鳴って名前のシャツをグイッと掴んだ。

………行くか…。


俺は廊下に出て、怒鳴り合う中心へ向かった。

ひでえ形相で名前に睨みをきかす女達。
俺が近付いていくと、女達はハッとこっちに気付き、表情を変えたのがわかった。

「る、琉夏君…」

名前の胸倉を掴んでいた女が手を離した。
名前も後ろを振り向く。
俺は笑顔で彼女達の前で足を止めた。

「何してんの?」

「えっと、いや…」

急にしおらしくなった彼女達。
さっきの威勢はどこ行ったんだよ。

名前の態度も悪いけど、どうせこいつらは、こんな事しながらもローズクイーン候補の名前が元から疎ましいんだ。
確かに名前は、こいつらと比べると群を抜くほど綺麗だから。

一方で、そんな名前が俺を睨んでいた。

「琉夏、邪魔すんなよ」

「邪魔じゃないよ。名前を呼びに来た」

俺は名前の肩に片腕を回し、巻き付けた。
それを見ていた女達が息を飲むのが分かった。
名前の頭に唇を寄せる。

「こいつ、俺のなの。変な事しないでね」

チュ、と名前の髪にキスをした。

それを見た女達が揃って顔を赤くする。

こいつらが俺のファンだって事は知ってる。
だから、こうしてみた。
案の定、俺と名前を交互に見ながら、何も言ってこない。

「琉夏、離せっ」
名前だけが腕の中で騒いでいる。

「じゃあね」
女達に手を振って、こいつを半ば引きずるようにして廊下を行った。
集まっていた他の生徒達も、俺達が来ると道を空ける。

そのまま誰もいない階段の踊り場まで移動した。

俺が腕を話すと、やっぱり突っかかってきた。
「いつから私が琉夏の女になったんだよ」

「んー、これから?」

下から睨み上げて来る顔は、俺にとってはだいぶ良い。

「あいつら、俺のファンだもん。もう何もしてこないよ」

「誰も頼んでない」

「名前が退学しちゃったら嫌だからさ」

「だったら琉夏も喧嘩やめなよ」

「俺はいいの。校外だから」

関係無いだろ、と悪態をつきながら名前が壁に寄りかかる。

「はあ…、何で私が琉夏なんかに怒られなきゃいけないんだよ」

「コウならいいの?」

「まあね」

俺も笑いながら名前の隣に背を持たれる。


「本当に俺のになったら、あんな事されないのに」

「誰があんたなんか」

そう言いながら、名前も笑っていた。



俺達は喧嘩してても、助けたり助けられたり。

こいつは俺に似てるのかもしれない。

だから今までもこれからも、多分ほっとけないんだ。





fin

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