記念日B

□自覚
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そのことは今でも鮮明に覚えている。

無くして初めて気づいた、愛しい人。










朝いつもの通りアカデミーに行くと、にぎやかな声が教室の外まで響いていた。

その声もいつものことといえばいつものことなんだけれど。

俺が扉を開けると予想通り、クシナと数人の男子が取っ組み合っていた。

みんなの視線もそっちに向いている。

「おはよう、今日もやってるんだね」

近くにいた友人にそう声をかけるとやっと気づいたのか視線が向けられた。

友人はあきれたように笑って頷いた。

「おはようミナト。今日もあいつらがクシナに喧嘩ふっかけてたんだ」

「相変わらずだね」



うずまきクシナ。

先の戦争が終わって木の葉の里に引っ越してきた女の子。
転校初日の強気な発言も相まって毎日喧嘩を吹っ掛けらえている。
律儀にその喧嘩を買っては朝から女の子とは思えないような取っ組み合いをしている。
それを誰も止めないのも、いつものこと。



俺は荷物を置いて取っ組み合っている前に立つ。

「もうすぐ先生も来るし、もうやめたほうがいいんじゃない?」

そして俺がその喧嘩の仲裁をするのもいつものこと。

二人は息を荒くしながら手を止めた。

「てめぇ命拾いしたな」

「何言ってんの。私のが優勢だったわよ」

お互いに睨み合って火花を散らすとそっぽを向いて各々の席へと戻っていった。

そして間なしに先生が現れみんなも席へと戻った。

俺の席はクシナの隣だから、さっきの喧嘩の傷とかよくわかる。

「今日もひどいね」
「ほっといてよ」

クシナは俺をにらんで言う。

「今日だってあんたが止めてなければ私の勝ちだったのに」

怒る彼女に思わず苦笑する。

「でもあそこで止めないと、前みたいに先生に怒られるよ?」

俺の言葉を聞いてクシナは苦虫をかみつぶしたような顔をした。

前に俺が止めても止まらなくて先生が来た時は喧嘩両成敗として二人そろって罰を受けた。

それ以来俺が止めると喧嘩をやめるようになった。


里の人間は外の者を厭う傾向が強い。
ましてや気の強いクシナは格好の餌食だった。
そんなクシナを屈服させようと皆挑んでは、引き分けか負ける。

俺はなんでそんなにクシナに突っかかるかわからない。



確かに他の女の子と違って、気が強くって意地っ張りで男勝りで喧嘩っ早くて、最近じゃ“赤いハバネロ”の2つ名で通っている。

でも明るくて快活で自分の意見をしっかり持っている。

それに努力家でいつも放課後一人で修行していたりする。

最近は俺も一緒に修行することも多くなった。



修行をしているときのクシナの姿はとてもきれいだ。

特に修行が長引いて夕方になった時。

夕焼けの赤とクシナの髪の赤がとても美しく輝くのを知っている。

なんとなくそれを誰かに言うのが嫌で、二人で修行しているのは皆に黙っている。



「クシナ、今日も修行するの?」

クシナは複雑な顔をしてコクリと頷いた。

「俺も行っていい?」
「別に」

クシナはそっけなくそう答える。
彼女が素直に言葉にすることは少ないからいつものことだ。





「影分身の術!」

クシナが印を結ぶとボフンと彼女と似たような影が現れた。

「あーもう!なんでよ!」

それはまだ完成とは言えないもので、本物よりふにゃふにゃしている。

「もっと精密にチャクラを練らないとダメみたいだね」

クシナはプクーっと頬をふくらました。

可愛いなと思いながら笑う。

「ちょっと休憩しようか。チャクラも切れかけてきたし」

俺が声をかけるとクシナも頷いて大の字に寝っころがった。

俺も同じように大の字に寝っころがった。

「影分身なんてできないー」

クシナは大きな声で言う。

「でも昨日よりずっとうまくできてたよ?完成も見えてきたでしょ?」

俺の言葉にクシナは唸った。

「でも地味。もっと、こう、すごい術が使いたい!」

クシナが火遁の火を噴くやつとか幻術とか、と身振り手振りする。

思わず笑ってしまってクシナの鋭い視線がささる。

「でも、こういう基礎が大事って先生も言ってたでしょ?そういう術はもっと修行をがんばったら使えるようになるよ」

クシナの不満そうな声が聞こえたが、そのまま目を閉じた。

そう、きっとアカデミーを出る頃はもっと多くの術が使えるようになって、任務ではもっと色々なことを学ぶのだろう。

そしていずれは皆に認められる立派な火影になる。


「よし!」

クシナの声に目を開けると、彼女は立ち上げって大きく伸びをした。

そしてすっきりした顔で俺を見る。

「修行再開よ!今度こそ影分身成功させてやるんだから!」


夕焼けの赤い光がクシナの髪に反射してキラキラと輝いている。
その美しい光景に思わずドキリと胸が高まった。
今まで見たどんな赤よりきれいで、呆然と見つめた。

「…何?」

どれくらい見つめていたのか、クシナが俺を見下ろして首をかしげる。

俺はあわてて何でもないと首を振り、立ち上がった。

心臓の鼓動が早い。
ひょっとしたら顔も赤いかもしれない。



彼女の赤はとてもきれいだ。
夕日の赤も彼女の赤にはかなわない。
髪が赤だから、というだけじゃない。
クシナ自身が、その性格も人格も、彼女のすべてが赤を彩る。
だから、クシナの赤は美しいんだ。

きっと、俺はそんなクシナにずっと惹かれてた。

明るくて快活で元気なクシナ。
努力家でいつも一生懸命なクシナ。

それはクシナへだけの想い。
他の誰とも違う、想い。

印を結んでチャクラを練る彼女の後姿を見つめる。

忍術の修行以外にも、頑張りたいことを見つけた。

たぶん、そんな忍術よりも大変に違いない。


「うん。頑張ろう」


俺も修行を再開した。








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