彼のセリフシリーズ

□試すような真似をしても無駄なのに
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※原作を捏造しています
※クシナが木の葉に連れてこられて、1年くらいして人柱力にされてしまいます。






ある日私は、九尾の人柱力になった。



その日以来、今まで以上に里の人間は私を避けるようになった。

喧嘩していた男の子達も私に関わらなくなった。

まるで腫れ物に触るような扱い。

…ただ一人を除いては。





空が夕焼け色に染まりはじめた頃。

「クシナ、一緒に帰ろう」

声のする方を見ると少年がにこにこ笑いながらこちらを見ていた。

誰もが私から離れていくのに、彼だけは側にいた。

思えば、この少年は最初からかわっていた。

皆他里からきた私を疎んでいたのに、今みたいににこにこと話しかけてきた。


『俺は波風ミナト。よろしく』

しばらくして多少木の葉に馴染んだのもつかの間、私は九尾の人柱力になった。

周りの人間は、私が里にきたばかりの頃より、よそよそしくなった。

でも彼だけは普通に接してくれるし、笑顔を向けてくれる。

だから心が凍えそうなこの場所でも生きていけた。




でも、だからこそ怖かった。

そのたった一つ残った笑顔さえ、いつか消えてしまうのかと思うと、怖くて堪らなかった。

信じている人に裏切られる。

そんな感覚に一番近い。

その時の絶望を考えると夜も眠れなかった。

だから考えた。

後になればなるほど、絶望が大きい。

なら、今断ち切ってしまった方が、まだ傷は浅いはずだと。


「…ミナト」

目の前で相変わらずにこにこしている少年は「ん?」と首を傾げた。

「…私は九尾の人柱力だよ」

「そうだね」

「だから、ミナトも皆と同じようにした方がいいよ。友達に、も色々言われてるんでしょ?私は別に気にしないから」


私がそう言うと、ミナトは一瞬驚いたように目を丸くして、そして悲しそうに、呆れたように笑った。



試すような真似をしても無駄なのに




小さな声でそう呟くと、ミナトは私をぎゅっと抱きしめた。

突然の行動にのどがひゅっと鳴り、思わず体が固まる。

「俺はね君が大切なんだ」

耳元で聞こえる声はどこまでも優しい。

「俺がクシナの側にいたいから、一緒にいたいから、ここにいるんだよ」

頭に添えられた手がぽんぽんとあやすようにリズムを刻む。

「クシナは笑った顔が一番似合うから、笑ってほしいんだ。せめて俺の前だけでも笑ってほしい、だから俺は笑うんだ」

そうすればクシナも笑ってくれるでしょ?

少し笑いを含んだその言葉に視界が歪んだ。

「俺がクシナから離れることはないよ。絶対に。だから、そんなに怖がらないで」


もう耐え切れなくて、声を上げて泣いた。

その間ずっとミナトは私を抱きしめていてくれた。


凍えた心が、溶けていく気がした。





END 2012/4/12
改訂 2012/7/30

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